なんでもよかった。
だれでもよかった。

気休めでも同情でも悲観でも、よかった。


「手作り?」


鋭い視線は、目ざとくあたしの手元を捉えた。相手は手すりに腕ごともたれ、代わりに顎で指す。

あたしはうつむいて、頷いた。

屋上から見える夕日は、とろとろと溶け出したように、屋上を真っ赤に照らす。


「食べます?」


深い意味はない。

だって、フラレた女と見ていた男。手元に残ったバレンタインのチョコレート。


「食わねぇよ」


差し出した袋を一瞥して、さも当然が如く冷たく言うもんだから、驚きで、瞳を潤す涙が弾けて乾いた。


「…そうですか」


そうですよね
気持ち悪い、ですよね。
手作りなんて。


「…っ」


いっそ、投げてしまおうかな。あの大きな夕日へ。

受け取ってくれるなら、相手が人じゃなくてもいい。この行き場のない想いから、解放されるのなら。


そう思って、想いを高く掲げた時、「――っ痛」その手首を捕まれて、あたしの体は一時停止する。


「さっきの男、三組の高田だろ?お前男の趣味悪すぎ」


煌煌と揺れる夕焼けがいたく眩しくて、あたしはギュッと目を閉じる。
ついでに震える手の甲で、目元を覆った。


「ほかの野郎に作ったものなんて、食う気しねぇ」


けど、と呆れたように付け足して、袋を掴んで固まるあたしの手を、無理矢理こじ開けた。


「渡せ。まずはそっから片付けてやる」


あたしは手の陰から、背の高い、強引なその人を見上げる。太陽にめいっぱい照らされて、柔らかい眼差しをこちらに向ける。

いつもの教壇に立つ険しい顔付きとは、違った。


「せ、先、生…?」


気休めですか?同情ですか?

それとも――


「俺にしとけば?そうやって泣かさねぇからよ」


告白、ですか?…先生。


唖然とするあたしに構わずに、先生は袋の中をガサガサとまさぐって、茶色い欠片を一粒取り出す。

口に含むとこちらを見下ろして、ふっと笑った。


「あっ、あたし、今フラレたばかりなんで」
「奇遇だな。俺も」


不覚にも、心臓がどきりと高鳴る。「…っ」あたしは急いで、想いと共に沈みゆく夕日に目をやった。