分厚い曇りガラスの板を拳で叩きながら、袖で涙を拭く谷原に声を掛ける。
「谷原さんッ!作り始めるわよッ!」
その声が届いたのかは分からないが、私が手を洗い、調理台の前に立つと、谷原もゆっくりと立ち上がり、調理台へと向かった。
幼い頃の記憶を呼び醒まし、材料に手を伸ばす。
材料の盛られたボウルには名前が書かれたシールが貼られていた。
右から【強力粉】【薄力粉】【中力粉】【グラニュー糖】【砂糖】【塩】【コンスターチ】【ベーキングパウダー】【ココアパウダー】【苺パウダー】【抹茶】【チョコチップ】【粉砂糖】【バター】【マーガリン】【卵】と並んでいた。
卵の隣には茶色い小瓶の【バニラエッセンス】と【バニラオイル】が置かれていた。
電子計りは調理台の上に置かれていたが、ふるいやヘラ、型などの器具は綺麗な状態で流し台の所に重ねられていた。
私はいくつかのボウルとふるい、ヘラを持ってきた。
バターと砂糖を切りの良い数字で計り取り、記憶を探しながら次に計るものに手を伸ばす。



