バケモノの呼吸に合わせて上下する柔らかく不安定な足場に立ち、スラックスのバックポケットからスマホを取り出す。

屋敷内でスマホを無駄使いしなかったのは正解だった。

ホームボタンを押すと、ロック画面が表示される。

電波は相変わらず圏外だが、バッテリーは86%と良好だ。

画面に指先を滑らせ、ライトを点ける。

パッと明るくなり、暗闇に浮かび上がったのは赤黒い空間だった。

ライトの光りを反射する表面は粘着性の体液で覆われ、足を上げるとパンプスの裏に粘り付いてきた。

どこにライトを当てても、景色は変わらなかった。

口へ繋がりそうな穴も見当たらない。

模索するより、吐き出してもらった方が早いかもしれない。