赤野が扉を閉めて、私の反対側に立って萎れた黒バラが挿さった花瓶を見つめる。

「どこの扉が開くのかな?」

「分からないけど、閉まってる扉なんてこの階には一つしかないわ」

「……とりあえず、注いでみよ」

「そうね……」

ボトルを握る手が小さく震える。

私は深呼吸をして、ボトルを顔の高さに持ち上げる。

ロウソクの炎の光を通さない赤黒い二宮の血を黙って見つめる。

震える手のせいで、血の表面が波を打ち、ボトル口を飛び越える。

その血はボトルを握る私の手の甲に流れ、肌のキメの隙間に入り込み、蜘蛛の巣の様に広がっていく。