廊下の音に耳を澄ませ、無音なのを確認してから、少しだけ扉を開けた。

すると、食欲を掻き立てる美味しそうな匂いが、扉の隙間から入り込んできた。

ぐうぅぅ〜っと背後から、大きな腹の虫が鳴く音が聞こえた。

食べ物の匂いに反応したのは、やはり塚本だった。

振り返ると、塚本は鼻の穴を大きく広げて、肩を上下に揺らしながら肺いっぱいに美味しそうな匂いを吸い込んでいる。

「食堂って……階段下りてすぐですか?」

塚本は扉の隙間から見える廊下を、瞬きもせず凝視している。

「えっと……下りてすぐだけど、塚本さん、この二階に来る時、通ったでしょ?」

二階に上がるには、食堂の赤い扉の先にある階段以外、道はないはずだ。

「甲冑に襲われた廊下を走って……扉を開けたら階段があって……だけど……無我夢中で、あまり、覚えてないです」