で、さらに翌日の昼休み。俺は再度桜井に呼び出された。「昨日と同じ場所で」という言葉に体育館裏まで行くと、
「遅いじゃない! 私を待たせる気!」
いきなり怒号が聞こえるが、こりゃ桜井の声じゃないぞと目をこらすと、梅村が仁王立ちし腕を組んでいた。その横には桜井がどこか引きつった笑顔でいるのが印象深い。
俺が近づくと桜井は、
「この方が、生徒会長に立候補している方です」
やわらかく俺を梅村に紹介する桜井。梅村は仁王立ちのまま鋭い視線を俺に向け、
「こんなのが生徒会長? 何かの間違いじゃない? 私の方がふさわしいと思うけど」
見たものを一瞬で凍らせてしまうような冷たい視線を俺に突き刺し、ケンカを売ってきやがった。
「まあまあ、夏美さぁん。いいじゃないですか。先に立候補したんだし、譲りましょうよぉ」
桜井は梅村の機嫌を取るかのように優しく話しかけている。
「早いもの勝ちってことはないでしょう! 相応しいのはわたし!」
「でもぉ、南校は代々男子が生徒会長をやってるって聞きますよ。ですから、ここは譲った法がいいかもしれませんねえ。それに副会長でいいじゃないでしょうか?」
「男子だけって、男女雇用均等法を知ってるのかしらこの学校は! もうそんな時代じゃないのよ!」
何故か梅村は激しくキレているが、それにしても相変わらず破天荒女だな。二人のやりとりを端からボケーっと眺めるしかない俺。桜井は追い討ちをかけるように、
「それに、生徒会長選で落選したら生徒会には入れなくなっちゃいますよ。副会長は立候補者がいないので、そちらの方がいいんじゃないですかぁ? この方は前生徒会長の推薦も受けていて、厳しい戦いになりますよぉ」
桜井は梅村に見つからない様に俺の方を見てウインクし、なにかアイコンタクトで伝えようとしているようだ。そう言えば昨日桜井は梅村の会長立候補を阻止してくれって言ってたよな。こりゃあ、俺に協力しろってことか? まあ、とりあえず、話を合わせるとするか。
「そうだぞ、俺は前会長及び前々生徒会長の推薦を取り付けている。おまけに生徒会顧問の厚木の推薦もだ。勝ち目はないぞ、おとなしく副会長になった方がいいんじゃないか」
言い終わって桜井を見てウインクすると、桜井は笑顔を返してきた。どうやらこれでよかったらしい。
「夏美さぁん。これじゃあ、厳しいですよお。副会長にしましょうよお」
桜井の必死の説得に梅村は、
「むう……」
苦虫を噛み潰したかのように歯軋りする梅村は顔から察するに相当悔しそうだ。しばらくして、
「わかったわよ美由、会長は諦めるわ。私は副会長に立候補するわよ。副会長でも立派な生徒会の一員だもんね」
そう言って桜井に笑顔を見せたと思ったら、俺の方にはガンを飛ばしてきやがる。なんなんだこの女は。
「いい、今回は副会長に甘んじてあげるわ。だけどあなたの部下だと思わないことね!」
フンとまるで鼻を鳴らしたように息を吐くと勢いよく踵を返し、校舎に向かって歩きだした。梅村の姿が小さくなり、
「あれで良かったのか?」
桜井を見つめると、笑顔全開で、
「はい、夏美さんも生徒会長を諦めてくれましたし、ありがとうございます」
深々と頭を下げる桜井。
「でも、なんでこんな芝居する必要があるんだ?」
「それは秘密ですぅ」
右手の人差し指を口に宛がい小さくウインクする桜井だが、そう言うと思ったよ。気がつくと予鈴が鳴っているようだ。やれやれ、今日は昼食抜きかとボヤキつつも、桜井と俺は教室へ向かい歩を進めた。
その後永久に来なくてもいいと思われた生徒会選挙はあっさりと俺達の当選速報を流し、これまたあっさりと終了してしまった。どうも他の生徒たちは「自分たちが巻き込まれなければいい」的傍観者的状態で、形式的な選挙はつつがなく終了し、選挙結果速報には俺達の名前が掲載されてしまったのである。
生徒会の仕事と言っても、生徒総会やら同好会の申請受付やらで特に学校の陰謀に立ち向かったり、悪の組織から学校を守る特命生徒会長でもないわけだ。不思議な出来事に多少の期待はあったのだが、至って普通の生活に多少の期待はずれ感を伴って、ただ平穏な日々を淡々と今日に至るまで送ってきたのであった。
「遅いじゃない! 私を待たせる気!」
いきなり怒号が聞こえるが、こりゃ桜井の声じゃないぞと目をこらすと、梅村が仁王立ちし腕を組んでいた。その横には桜井がどこか引きつった笑顔でいるのが印象深い。
俺が近づくと桜井は、
「この方が、生徒会長に立候補している方です」
やわらかく俺を梅村に紹介する桜井。梅村は仁王立ちのまま鋭い視線を俺に向け、
「こんなのが生徒会長? 何かの間違いじゃない? 私の方がふさわしいと思うけど」
見たものを一瞬で凍らせてしまうような冷たい視線を俺に突き刺し、ケンカを売ってきやがった。
「まあまあ、夏美さぁん。いいじゃないですか。先に立候補したんだし、譲りましょうよぉ」
桜井は梅村の機嫌を取るかのように優しく話しかけている。
「早いもの勝ちってことはないでしょう! 相応しいのはわたし!」
「でもぉ、南校は代々男子が生徒会長をやってるって聞きますよ。ですから、ここは譲った法がいいかもしれませんねえ。それに副会長でいいじゃないでしょうか?」
「男子だけって、男女雇用均等法を知ってるのかしらこの学校は! もうそんな時代じゃないのよ!」
何故か梅村は激しくキレているが、それにしても相変わらず破天荒女だな。二人のやりとりを端からボケーっと眺めるしかない俺。桜井は追い討ちをかけるように、
「それに、生徒会長選で落選したら生徒会には入れなくなっちゃいますよ。副会長は立候補者がいないので、そちらの方がいいんじゃないですかぁ? この方は前生徒会長の推薦も受けていて、厳しい戦いになりますよぉ」
桜井は梅村に見つからない様に俺の方を見てウインクし、なにかアイコンタクトで伝えようとしているようだ。そう言えば昨日桜井は梅村の会長立候補を阻止してくれって言ってたよな。こりゃあ、俺に協力しろってことか? まあ、とりあえず、話を合わせるとするか。
「そうだぞ、俺は前会長及び前々生徒会長の推薦を取り付けている。おまけに生徒会顧問の厚木の推薦もだ。勝ち目はないぞ、おとなしく副会長になった方がいいんじゃないか」
言い終わって桜井を見てウインクすると、桜井は笑顔を返してきた。どうやらこれでよかったらしい。
「夏美さぁん。これじゃあ、厳しいですよお。副会長にしましょうよお」
桜井の必死の説得に梅村は、
「むう……」
苦虫を噛み潰したかのように歯軋りする梅村は顔から察するに相当悔しそうだ。しばらくして、
「わかったわよ美由、会長は諦めるわ。私は副会長に立候補するわよ。副会長でも立派な生徒会の一員だもんね」
そう言って桜井に笑顔を見せたと思ったら、俺の方にはガンを飛ばしてきやがる。なんなんだこの女は。
「いい、今回は副会長に甘んじてあげるわ。だけどあなたの部下だと思わないことね!」
フンとまるで鼻を鳴らしたように息を吐くと勢いよく踵を返し、校舎に向かって歩きだした。梅村の姿が小さくなり、
「あれで良かったのか?」
桜井を見つめると、笑顔全開で、
「はい、夏美さんも生徒会長を諦めてくれましたし、ありがとうございます」
深々と頭を下げる桜井。
「でも、なんでこんな芝居する必要があるんだ?」
「それは秘密ですぅ」
右手の人差し指を口に宛がい小さくウインクする桜井だが、そう言うと思ったよ。気がつくと予鈴が鳴っているようだ。やれやれ、今日は昼食抜きかとボヤキつつも、桜井と俺は教室へ向かい歩を進めた。
その後永久に来なくてもいいと思われた生徒会選挙はあっさりと俺達の当選速報を流し、これまたあっさりと終了してしまった。どうも他の生徒たちは「自分たちが巻き込まれなければいい」的傍観者的状態で、形式的な選挙はつつがなく終了し、選挙結果速報には俺達の名前が掲載されてしまったのである。
生徒会の仕事と言っても、生徒総会やら同好会の申請受付やらで特に学校の陰謀に立ち向かったり、悪の組織から学校を守る特命生徒会長でもないわけだ。不思議な出来事に多少の期待はあったのだが、至って普通の生活に多少の期待はずれ感を伴って、ただ平穏な日々を淡々と今日に至るまで送ってきたのであった。

