いやまて違うな。生徒会に誘い俺に近づくってことはあるかもしれないが(まあ、多分ないだろうがな)、ろくに喋ったこともないのにそんな事する訳ないよな。はて、じゃあ、なんで桜井は俺を推薦するんだ?
 ちょっと待てよ。もしかしてこのパターンは体育館裏って呼び出しでシメられちまうとか? 俺は素行不良と言われているが、そんな目立ったことはしていないし、「普通やや下」くらいだ。だからその線はないと思うが……。だが、相手はあの桜井だぞ? あの華奢な身体でってことはないだろう。はて? じゃあ結局何なんだろうな?
 などと、妄想を膨らませているとチャイムが鳴り、昼休みとなる。
 俺はとりあえず昼飯に誘う山本を横目に廊下へ出ると、桜井が俯きがちに立っていた。
「よう」
 極めて明るく、かつ、隙を見せまいと呼びかけると、桜井は愛想笑いを見せ、
「すみません。ちょっとこちらへよろしいでしょうかぁ」
 桜井を先頭に後を歩く俺。桜井は校舎を出て、渡り廊下を通り、体育館裏までやってきた。やべえ、やっぱシメられちまうのか?
 俺は一定の距離を保ち、若干身構えがちにいると、桜井はこちらに向き直り、
「あなたに、お話があります」
 真剣な表情の桜井。
「あなたは、この世界の他に別の世界があると思いますか?」
 予想だにしていなかった言葉が降ってきた。ええと、ここは何と返した方がいいのかな。ひょっとしてギャグなのか? 何か面白い事を言わなければならないのか? などとしばらく思案するも的確な回答を持ち合わせていない俺。そりゃそうだろ、ほぼ初めて会話する女子生徒に「もう一つの世界」について感想を聞かれても即答出来るほど俺は出来た人間じゃない。だが、まあ、ここは何か言っておかないとヘタレ的視線で見られそうなので、
「ああ、そうだな。あるんじゃねえの? 俺たちが暮らしているように、別の世界があって、そこにはその世界の人々が暮らしているだろうよ」
 とりあえず、適当な事を言っておく。
「本当ですか」
 桜井は手を胸の前で合わせ、さっきまでとは打って代わり生き生きとした表情で、
「やはり、あなたに聞いたのは正解のようです。よかったですぅ」
 俺に微笑みかけるが、一体全体何の事なんだ?
「ええと、話ってのはそれだけか?」
 いきなりの電波的会話だとしてもこんな話は廊下でもできるわけだし、わざわざこんな所に呼び出さなくてもよかろうに。
「いえ、ここからが本題です」
 笑顔から真剣な表情になる桜井だが、今のは何かの前フリだったのか?
「あっ、あのう、夏美さん。ううん。梅村さん知ってます?」
 さっきまでの会話はどこにいったのだろうか。でもまあ、さっきの電波的話よりかは幾分ましだな。
「梅村? 梅村って桜井と同じクラスの?」
「そうです。梅村夏美さんです」
 梅村と聞いて、俺が思い出すのは気の強いやかまし女しか思い浮かばないぜ。たまに三組の教室に遊びに行くと、梅村は大声で笑い、すげえ勢いで若干引くくらいあきらかに他の女子生徒とは異なるオーラを出しまくっていた記憶があるし、三組・四組合同で行われる体育の授業では、いつも女子の体育姿を山本と鼻の下を伸ばして見学しているのだが、その中で一際目立っていたのが誰であろう梅村である。短距離では他の女子生徒をいとも簡単に置き去りにし、ソフトボールではそのまま日本代表になれるんじゃないかという剛速球をミットに叩き込む。顔はまともな方というか、かなり上位ランクに食い込むのだが、破天荒の性格ゆえ、俺のように引いている奴も多くいる。彼氏でも作って学園生活を謳歌すればいいものを、彼氏を作る素振りをまったくもって見せず、告白に来た男子をバッタバッタと切っていったという噂だ。
「で、その梅村がどうかしたのか?」
 まるで桜井と正反対だし、何で桜井の口から梅村が出てくるのかな?
「はい……じっ、実は、夏美さんは生徒会長になりたいらしいのです」
「は? 生徒会長?」
 こんなアホみたいな声しか出ない俺。