「そうだ! もう一回あっちの世界に行きましょう! それで美由を連れ戻してくればいいじゃない!」
何かを思い出したかのように夏美は強い口調で俺たちを見渡すが、福居がポツリと、
「それは無理だよ、夏美さん。確かタケシは、『あなた方が帰った後、ネットワークを切断してしまいますので、もうお会いする事はないでしょう』って言ってたから、もうネットワークは生きてないんじゃないかな」
「じゃあ、どうすれば……」
「どうしようもないよ。僕たちが思い出してしまった事はイレギュラーだと思うけど、多分他の人たちは美由さんの記憶を完全に消去されてしまっているみたいだし、もう、手はないと思うよ。せめて、僕らだけでもこれから美由さんの事を忘れないように努力しないと」
「そんな、死んじゃったわけじゃないのよ! 今もあっちの世界にいるのよ……それが会えないなんて……」
夏美の言葉に、再び沈黙が訪れた。このままでは、埒があかない。
「今日はもう、帰ろうぜ」
俺の言葉で全員が身支度を始め、四人で駅に向かった。一人少ないだけで俺たちの心のどこかにポッカリと大きな風穴が開いているように感じられ、こんなに寂しい帰宅は生徒会に入ってからはもちろん、高校に入ってからも初めてだった。
ゴールデンウィークが明け十日ほどが過ぎた。俺たちが美由の事を思い出してからも一週間が経過したことになる。心の一部が欠けてしまった、って感じはいつものように通学し、適当に授業を受け、昼休みになっても変わらない。無気力感が全身を支配しているようだ。答えのないロジックを解いているように常に答えを模索中で、何事にも集中できないでいた。夜ベットに入ってもなんとなく睡魔は訪れず、ぼんやりとしているうちに朝になり、授業中に睡眠の補完を行うというループだった。今日も授業中寝ていたせいか、未だに頭がボーっとするぜ。
いつの間にか昼休みとなり、いつものように山本と徳永コンビがやってきて、昼飯を食っている。たわいもない雑談の中で、
「なあ、あの娘休んで一週間だってよ」
徳永は、おかずの餃子に醤油をたらしながら言い、
「へえ、一週間ねえ、風邪か何かじゃないの?」
山本は相変わらずコンビニのおにぎりを慎重に開封しながら答えた。
「でも、不思議なんだぜ、山本。今日になるまで誰もその娘が休んでること覚えてなかったらしいんだ、みんな今日気付いたらしいぞ」
「へえ、みんなに忘れられてるなんて可愛そうだねえ。そんなに影が薄かったっけか? ……桜井さん」
心ここにあらずといった感じで弁当を食っていた俺だったが、山本の言葉に伸びきった脳みそが一気に収縮運動をする感じ、眠気がすっ飛びボーっとしていた頭が瞬く間に覚醒する感覚を覚えた。
「おい、今のは誰の話だ! 桜井って、どの桜井だ!」
俺の気迫に気押されたのか、
「なっ、何言ってるんだ? 桜井って言ったら桜井美由だろ、お前を生徒会長に推薦した。まさか忘れちまったんじゃないだろうな?」
山本は哀れむような目で俺を見ているが、美由だと? 美由はこっちの世界に戻れなくて、全員の記憶から消されたはずだ。だが、こいつらの会話じゃ正確に美由の存在がある。
俺は食いかけの弁当を放り投げ、美由のクラスへとダッシュした。そのままの勢いで教室内に駆け込み、適当に捕まえた生徒に、
「おい、美由が休んでるって?」
息も絶え絶えに聞くと男子生徒は、
「ああ……桜井なら連中明けからずっと休んでいるよ、でもおかしいんだよなあ、休んでるってことに全員今日気付いたんだ。それまでは存在を忘れちゃってたみたいにさ」
「で、美由の席はどこだ?」
「そこだよ。窓際の一番後ろ」
男子生徒の指差す方向に視線を向けると、確かに空席が一つあり、未だこない主を待っているかのように静かに佇んでいた。
「美由……」
うわごとのように呟く俺を見て、「会長、大丈夫か?」と男子生徒は訝しげな表情で俺を見ていた。
放課後、掃除をサボり生徒会室に速攻で向かうと全員に向かい、
「おっ、おい、美由の席があるぞ」
扉を開けるなり大声で言い放った俺に全員の視線が集まる。
「ちょっと何言ってるのよ、会長。美由の席があるって、美由はもう帰ってこないのよ。会長が言ったんじゃない」
夏美は飲みかけのコーヒーを机に置くと厳しい睨みを効かせてくる。
「そうだよ、会長、美由さんはあっちの世界の住人なんだ。こっちにいる事がおかしな事だって言ったのは会長じゃないか」
福居は読んでいた漫画を棚に戻しながら言った。
「いや、同じクラスの奴に聞いたんだが、美由は連休明けからずっと休んでるって言うんだ。しかも、全員今日になるまで気付かなかったって言うんだぞ」
「にゃあ、本当にゃ? みゆりん帰ってきたのにゃ?」
さやかはパソコンのモニターから顔を上げ、いつものニヤケ顔で俺を見ていた。
「聞き間違いじゃないとは思うのだが、確かに山本は桜井って言ったよな。で、同じクラスの男子も美由って言葉に反応したよな」
「じゃあ、会長、みんなに美由の記憶が戻ったって言うの? 戻ったってことは帰ってくるってことよね?」
何かを思い出したかのように夏美は強い口調で俺たちを見渡すが、福居がポツリと、
「それは無理だよ、夏美さん。確かタケシは、『あなた方が帰った後、ネットワークを切断してしまいますので、もうお会いする事はないでしょう』って言ってたから、もうネットワークは生きてないんじゃないかな」
「じゃあ、どうすれば……」
「どうしようもないよ。僕たちが思い出してしまった事はイレギュラーだと思うけど、多分他の人たちは美由さんの記憶を完全に消去されてしまっているみたいだし、もう、手はないと思うよ。せめて、僕らだけでもこれから美由さんの事を忘れないように努力しないと」
「そんな、死んじゃったわけじゃないのよ! 今もあっちの世界にいるのよ……それが会えないなんて……」
夏美の言葉に、再び沈黙が訪れた。このままでは、埒があかない。
「今日はもう、帰ろうぜ」
俺の言葉で全員が身支度を始め、四人で駅に向かった。一人少ないだけで俺たちの心のどこかにポッカリと大きな風穴が開いているように感じられ、こんなに寂しい帰宅は生徒会に入ってからはもちろん、高校に入ってからも初めてだった。
ゴールデンウィークが明け十日ほどが過ぎた。俺たちが美由の事を思い出してからも一週間が経過したことになる。心の一部が欠けてしまった、って感じはいつものように通学し、適当に授業を受け、昼休みになっても変わらない。無気力感が全身を支配しているようだ。答えのないロジックを解いているように常に答えを模索中で、何事にも集中できないでいた。夜ベットに入ってもなんとなく睡魔は訪れず、ぼんやりとしているうちに朝になり、授業中に睡眠の補完を行うというループだった。今日も授業中寝ていたせいか、未だに頭がボーっとするぜ。
いつの間にか昼休みとなり、いつものように山本と徳永コンビがやってきて、昼飯を食っている。たわいもない雑談の中で、
「なあ、あの娘休んで一週間だってよ」
徳永は、おかずの餃子に醤油をたらしながら言い、
「へえ、一週間ねえ、風邪か何かじゃないの?」
山本は相変わらずコンビニのおにぎりを慎重に開封しながら答えた。
「でも、不思議なんだぜ、山本。今日になるまで誰もその娘が休んでること覚えてなかったらしいんだ、みんな今日気付いたらしいぞ」
「へえ、みんなに忘れられてるなんて可愛そうだねえ。そんなに影が薄かったっけか? ……桜井さん」
心ここにあらずといった感じで弁当を食っていた俺だったが、山本の言葉に伸びきった脳みそが一気に収縮運動をする感じ、眠気がすっ飛びボーっとしていた頭が瞬く間に覚醒する感覚を覚えた。
「おい、今のは誰の話だ! 桜井って、どの桜井だ!」
俺の気迫に気押されたのか、
「なっ、何言ってるんだ? 桜井って言ったら桜井美由だろ、お前を生徒会長に推薦した。まさか忘れちまったんじゃないだろうな?」
山本は哀れむような目で俺を見ているが、美由だと? 美由はこっちの世界に戻れなくて、全員の記憶から消されたはずだ。だが、こいつらの会話じゃ正確に美由の存在がある。
俺は食いかけの弁当を放り投げ、美由のクラスへとダッシュした。そのままの勢いで教室内に駆け込み、適当に捕まえた生徒に、
「おい、美由が休んでるって?」
息も絶え絶えに聞くと男子生徒は、
「ああ……桜井なら連中明けからずっと休んでいるよ、でもおかしいんだよなあ、休んでるってことに全員今日気付いたんだ。それまでは存在を忘れちゃってたみたいにさ」
「で、美由の席はどこだ?」
「そこだよ。窓際の一番後ろ」
男子生徒の指差す方向に視線を向けると、確かに空席が一つあり、未だこない主を待っているかのように静かに佇んでいた。
「美由……」
うわごとのように呟く俺を見て、「会長、大丈夫か?」と男子生徒は訝しげな表情で俺を見ていた。
放課後、掃除をサボり生徒会室に速攻で向かうと全員に向かい、
「おっ、おい、美由の席があるぞ」
扉を開けるなり大声で言い放った俺に全員の視線が集まる。
「ちょっと何言ってるのよ、会長。美由の席があるって、美由はもう帰ってこないのよ。会長が言ったんじゃない」
夏美は飲みかけのコーヒーを机に置くと厳しい睨みを効かせてくる。
「そうだよ、会長、美由さんはあっちの世界の住人なんだ。こっちにいる事がおかしな事だって言ったのは会長じゃないか」
福居は読んでいた漫画を棚に戻しながら言った。
「いや、同じクラスの奴に聞いたんだが、美由は連休明けからずっと休んでるって言うんだ。しかも、全員今日になるまで気付かなかったって言うんだぞ」
「にゃあ、本当にゃ? みゆりん帰ってきたのにゃ?」
さやかはパソコンのモニターから顔を上げ、いつものニヤケ顔で俺を見ていた。
「聞き間違いじゃないとは思うのだが、確かに山本は桜井って言ったよな。で、同じクラスの男子も美由って言葉に反応したよな」
「じゃあ、会長、みんなに美由の記憶が戻ったって言うの? 戻ったってことは帰ってくるってことよね?」

