なつよん ~ある生徒会の平凡な日々~

「さて、帰るとしましょうか」
 夏美の言葉に全員が頷き、モニターを見つめた。
その瞬間、人の視線を感じた俺はふと窓の方へと振り返ると、美由がガラスにへばりついてここから見てもわかるように顔を濡らしていた。涙を拭う様子も見れず。大粒の涙を生み出しながら俺達をずっと見つめていた。
「美由、俺はお前の事を忘れない。記憶が無くなってしまおうが、痕跡が消されてしまおうが絶対に忘れない。お前はいつまでも俺達南校生徒会の一員だ。ありがとう……美由」
 そう心の中で強く願い、美由に向かって頷くと俺はモニターを見つめた。
魔方陣らしきものが動いている。ゆがみ、縦長になったり、横長になったり、背景の幾何学もようも下から上へとスクロールし、そのうち潰れた魔方陣は光を発しはじめ、短い間隔で点滅し、段々と意識が薄らいでいった。
「……んっ」
 俺は意識を取り戻した。他の連中はまだ起きていないのか? と思ったところで、部屋の暗さに気づく。
 たしか、向こうを出たときは昼だったのになぜ夜なんだ? 夜まで寝ちまったってことか? 壁の時計を見ると十二時十分を指していた。十時間近くも寝ちまったってことになるのか?
俺は、全員の肩をゆすり起こと、
「んっ、ううん」
「ふにゃあ」
「どうした?」
 三人とも反応はまちまちだ。
 周りを見渡すと、南側に窓があり月の光が煌々と差し込んでいるのがわかる。壁際の本棚にはやたらと冊子が並んでいて俺は改めて思った。
「帰ってきたんだな」
 しかし、問題がある。「今はいつだ」ということだ。
俺たちはタケシ達の世界で七日間過ごし、世界崩壊の危機を救い戻ってきた。最初のタケシの説明によると、あっちの世界とこっちの世界の時間軸は同一だから、向こうで過ごした時間分、こちらの世界では経過したことになるのだが。
 ……ということは、俺たちは丸一週間行方不明で家族と学校は大騒ぎさ、なんて考えた。こりゃ一大事だな。
「会長、難しい顔をしてどうかした?」
 夏美が不思議そうに見つめる。
 俺は、今思ったことを口にした。どうすりゃいい?
「ひゃあ、お母さんにおこられるにゃあ」
 さやかは、頭を抱え、オロオロしていた。
「まあ、落ち着いて、時報を聞いてみよう」
 福居は携帯を取り出し、一一七番をプッシュして、女性ナレーターの冷静な声に耳を傾けるが、しばらく聞いて「えっ」と声を上げた。
「変わってない……今日は五月三日だって……」
「はっ?」
 全員驚嘆の言葉が揃ってしまった。
「何言ってるんだ、福居。俺たちは七日間過ごしたはずだぞ、俺が刺されたり、レジスタンスが攻めてきたりしたじゃねえか」
「でも、時報はそう言っている。聞いてみるかい?」
 福居はそう言って、携帯を差し出した。
 全員が聞き耳を立てると、女性ナレーターの落ち着いた声は、
「只今より、五月三日午前〇時十二分五十秒をお知らせします……」
 どういうことだ? 全員が顔を見合わせた。
 つまり俺たちは、あっちの世界に行った十分後に戻ってきたってわけだ。もしかしてこれってタイムトラベルをしちまったって事なのか?
「まさか、全部夢だったってことは無いわよね?」
 夏美は困惑した顔で俺を見つめていた。
「そんなわけないだろ。みんな覚えてるだろ? 向こうの世界を」
 全員が頷くが俺は現実が把握できない。まさか本当に夢だったのか? いやいや、俺たちの記憶は鮮明だ。夢のはずはないのだが……しばらく考えてみるが、頭の中に何か違和感があり、ぼんやりしていて耳鳴りと眩暈のダブルアタックを喰らっているようだ。何なんだまったく、しかしまあ考えてもしょうがない、
「とりあえず、学校を出よう」
「そうね」
 夏美のことばに全員が立ち上がる……と、
「あっ、モニターを見てにゃ」
 モニターに視線を移したさやかが、何かを発見し指を差していた。
 全員がモニターを見つめると、そこには、
「アンゴルの超光学的時空移動システムにより、あなた方を元の日付にお返しします。――タケシ・キョウ――」
 暗転したモニターにドットの粗い文字で無機質に書かれていた。
「そういうことか、タケシ」
 俺たちは、生徒会室を後にし、七日前に通ってきた真っ暗な校舎中を闊歩していく。歩きながら段々と頭が覚醒してきた。靄のようなものが晴れる感じで、あっちの世界での出来事が段々と脳裏に浮かんできた。しかし、俺は何回も刺されちまうし、福居とさやかも強かったよなあ、相手とまるでレベルが違ったようだぜ。
 と、ここまできたところで再び耳鳴り。なんだ? 施設に帰ってきての事を思い出そうとすると激しくなりやがる。何があったんだっけ? なんとなくだが、とても悲しい事があったような……?
「会長、どうかしたの?」
 立ち止まり訝しげな顔をしている俺を夏美が覗き込んでいた。

「いや、別に、さっさと帰ろうぜ」
 俺達は真っ暗な校舎内を歩き、来たときと同様に一階女子トイレから外にでると、校門前で校舎を振り返った。
「なんか、色々あったな」
「そうね、本当に不思議な体験だったわ。今でも夢みたい」
 夏美もいつになく真剣な顔をしていた。
「でもたのしかっちゃにゃあ、ねえふくちゃん」
「そうですね。こちらの世界ではまず体験することができない事ばっかりでしたからね」
 さやかと福居の会話を最後に俺たちはゴールデンウィーク後の再会を約束し、いつもの様に手を振りながら解散となった。俺も頭の靄が未だに完全には晴れてはいないが、寝ちまえばスッキリするさと楽観的思考で家路を急いだ。
 時計の針は一時前を指しているしな。