なつよん ~ある生徒会の平凡な日々~



 時計を見た。
 
 三時五分――。

 本来ならあと四十分ほどで地球は滅びてしまう。なんとしてもそれは食い止めなければ。
 約束の地の麓までは十分たらずで到着し、後は丘の上まで全速力で登るのみだ。
「後はあなた方にすべてお任せします。私は戻って福居さんとさやかさんの援護をしますので、ではよろしくお願いします」
 最後までキョウは丁寧だな。
「じゃ、行くか」
「そうね」
 俺と夏美は丘の上に向かって走りだす。俺は腕時計に視線を移すと、三時二十分を指していた。
 その丘は俺たちが元いた世界とまったく同じだ。俺たちの世界では山頂に古墳があるので、ちょっとした観光名所になっている場所なのである。
 夏美と俺は山道を全力で駆け上がる。結構急坂で、膝が悲鳴をあげそうになっているが、そんなのお構いなしだ、俺たちの命どころか世界がかかっているんだからな。
 丘の上に着いた俺は周囲を見渡すと、頂上には南の端に祭壇のようなものが設置されており、コンクリートで覆われた平で広いスペースが姿を見せた。
時計は三時三十二分。「まだ間に合う」俺たちは祭壇に登るとすかさず夏美は祈るように手を顔の前で組んだ。


 俺は空を見上げる――。


 どんよりとした雲の中に稲光が無数に走り、一目見ただけで、なにかヤバそうな雰囲気が漂っており、自然の猛威に晒されている気分だぜ。雷鳴が鳴り止むことなく、さらに激しさを増しおまけに強風が吹き荒れる丘の上。異常気象の真っ只中に立ち尽くすことしかできない俺たち。しかも今度は地面が揺れだしたぞ。くっ、震度五くらいはあるぞ、立っているのがやっとの思いで、本当に世界の終わりが近づいたのだと直感させられた。

 その瞬間――。
 突然夏美が気を失ってしまったかのように倒れこんでしまった。
「夏美!」
 俺は夏美にかけより抱きかかえながら肩を揺らすが目を開ける気配はない。
「どうしちまったんだ……ここまで来て……」
 俺は空を見上げると、空が割れ、漆黒の闇が口を開けていた。ちきしょう、何もできない俺に嫌気がさす。
まてよ、タケシは俺が夏美の鍵だと言った。夏美が精神的に傷ついている時におれの出番が来るって言ってたよな。俺の思う行動をとれって。でも今の俺にできることって……。
「かっ、かいちょう」
 夏美が微かに目を開けるが体からは力を感じられない。
「力が入らないよう。軌道は逸れてないよね。ごめん。駄目だったのかな……。みんなを救えなかった……みたい」
 夏美の目から涙が溢れ出す。
「夏美、あきらめるな! まだ終わりじゃない! お前ならできる!」
 叫んでみるものの、夏美の体は一向に力が入る気配がない。どうしたらいいんだ? 半分諦めかけた、その時、
「諦めてはいけません」
 ふいに女性の言葉が聞こえたような気がした。なんだ? 誰だ喋っているのは? ここには俺と夏美しかいないはずだ。俺は周囲を見渡すがもちろん誰もいない。
「あなたたちは生きのびなければなりません、さあ、封印を解いて」
 何というか、耳で聞くというよりかは直接頭に響いてくる様だ。しかも、封印ってなんだ。と考えているうちに頭の中でその(・・)光景が浮かんだ。
 今の俺にできることはこんな事しかできない。それが正解かどうか見当もつかないが、俺は思い浮かんだ行動をとる。
俺は抱きかかえた夏美の唇に自分の唇を重ね目を瞑った。
 世界の終わりか、こんなことなかなか味わえないぜ。でも今は夏美と最後の時を一緒にいれるんだ。これはこれで幸せだな……。
 稲光と風のがさらに大きくなる。
 と、次の瞬間、目を瞑っていてもはっきりわかる程の光に包まれた。
 なんだ? 俺は恐る恐る目を開くと、抱きかかえている夏美の体がまばゆいばかりに発光しているじゃねえか。何なんだ一体? 
 やがて夏美の体を覆っていた光は空へ登り始め、上空十m程の地点で変形し始めた。どうやら人のような形になっていっているらしい。
 女性のような出で立ちだが発光により細かく把握できない。数秒後その光は収縮し俺の視界に入ってきたのは一人の女性の様に見えた。肩までの髪で大きな瞳――俺はとっさにある人物の名前を叫んでしまった。