なつよん ~ある生徒会の平凡な日々~

「さやか!」
 夏美がさやかに抱きつくと、さやかは「にゃあああ」と意味不明の言葉を発しているが、それって苦しがっているだけと違うか?
「よかった。無事だったのですね」
 福居も安堵の表情になり、深く息をついた。
「悪い奴らをやっつけたにゃあ。ファイアの魔法を使ったんにゃけど、火加減を間違っちゃったにゃあ、げふげふ」
 そい言ってさやかは漫画でありがちな黒い咳をするが、そういえばこいつは黒魔術師属性だった。車内で魔法を使ったって言うのか? さすがさやか、一人で解決しちまうとは。俺はとりあえず「良かったな」とキョウの方を見ると、
「よくありません」
 よく見るとキョウは真剣な表情になっており、しきりに周囲に気を配っているようだった。
「どうやらおびき出された様ですね」
 キョウの言葉に全員が周囲を見渡すと、施設に攻めてきた奴らとは別の部隊らしき奴らに取り囲まれてしまっていた。ざっと見る限り三十人くらいはいるぜ。
「やるしかないね。ここは俺達にまさせろ」
 福居が俺達を制するように前に立ち、
「にゃあ、悪いやつをやっつけるにゃあ、怒ったにゃあ」
 さやかも気合が入っているようだった。
 福居とさやかが一瞬目を合わせると、男たちの中に飛び込んでいった。端から見ている事しかできない俺は二人の戦況を見つけていると、
「うおらああ」
 福居は、相変わらず親の仇のように剣を振りまくっていた。しかもどこから出したかわからん剣で交戦している。相手の太刀筋を正確に読み、体全体を使って避け、相手に隙ができたところで一撃入れている。やっぱ相手は気絶しているだけみたいだな。
 一方でさやかはと言うと、片手を突き上げ、振り下ろすと同時に「ライディーン」と叫ぶと、人工太陽の下に巨大な雷雲が発生し、的確に相手に雷を落としている。すげえ威力だ。前の戦闘で使っていた呪文よりさらにスキルが上がっているんじゃないか?
 周囲を見渡すと多くの敵が福居とさやかに気をとられ、今なら隙がありそうだ、
「会長、夏美さん、ここはお二人に任せて、私たちは行きましょう」
 キョウは夏美を見つめた。
「でっ、でも二人を置いていけないわ」
「何を言ってるのですか、約束の時に間に合わなかったらすべておしまいなのですよ。あなたは何があっても約束の地へ行かなければなりません」
 キョウの言葉にも力が入っている。
「そうだ! 夏美さんと会長は行ってくれ! ここは僕とさやかさんにまかせろ!」
 福居が敵と交戦しながら叫ぶ。その声で何人かは俺たちに気付いたかのように俺たちの方に向かって来やがった。こりゃ、一刻も早くここを離れないと巻き込まれちまいそうだぜ。こりゃ、あいつらにまかせるしかないな。
「大丈夫だ。あいつらなら、こんな攻撃耐えられる。おまけに勝っちまうだろう。なんたってあの二人は南校生徒会のメンバーなんだぜ。あいつらの事を会長の俺と副会長の夏美が信じてやれなかったら、誰が信じるんだ」
「……そうね、わかったわ。みんな気をつけて」
 夏美は決心したらしく俺を見つめて頷き、追手を振り切って三人でクーペに飛び乗り、走って追いすがる連中を蹴散らしながら堤防沿いの草むらの中へ飛び込んだ。
 俺の背丈ほどある茂みを猛スピードで走る。フロントガラスからは草むらしか見えず、かなりの凹凸路面を走っているような感じだ。車は大きく揺れ後部座席で転がりまわる俺。こりゃあ、到着する前に全身打撲的状態だぞ。しばらくはそんな道だかわからん所をかっ飛ばしていたが、不意に視界が開け普通の道に飛び出した。
「いきますよ、ちゃんとつかまっててくださいね」
 キョウはスマイルを一つ出し、アクセルを勢い良く踏み込んだ。