翌日、俺は早めに目が覚めてしまった。
「今日で全てが決まるんだな」
 そう思った途端、今までにない恐怖感が襲ってくるのがわかる。プレッシャーかな。今までそういうのとは無縁だと思っていたが。
 俺たちの……夏美やさやか、美由、福居、いやいやそれだけじゃない、山本も徳永も、タケシもキョウも全ての人間の運命がかかっているんだ。絶対しくじってはいけない。何がなんでも成功させてやる。
 でもまあ、実際に行動するのは俺じゃなく夏美だけで、俺ができるのはその補佐ってことだけなのだが。
 全員が起床し、リビングに集合する。
 言葉が無いのは、全員事の重さに気づいているからかもしれない……今日の俺たちの行動が世界を左右するなんて、ついこの前までは考えられなかった事だしな。
「おはようございます」
 タケシが部屋に入ってくる、いつも笑顔だ。
「いよいよですね」
 タケシは全員を見渡しながら、
「世界はあなた方に掛かっています。どうぞよろしくお願いします。ではこれからの事をお話します」
 そう言うと、タケシはテーブルの上に一枚の図面を広げ、
「現在、我々の施設があるのがここです」
 図面の一点を指差す。そこはまぎれもなく、俺たちの高校がある場所だ。川の位置、山の配置すべてが俺たちのいた世界と同じものだ。ただ一つ違うのは住宅団地や工業団地が無いって事だけだな。
 タケシはもう一点、山際のあたりを指し、
「夏美さんには、この場所で祈りを捧げて欲しいのです。ここには我々が設置した祭壇がありますので、その上で約束の時間の十分前に祈りを捧げてください」
「でも、祈りの言葉って言うのは? 何も聞いてないわよ」
「言葉はいりません。位相がずれた空間の修復を念じてもらえればいいのです」
「そんなので、異相空間は無くなってくれるの?」
 夏美は半信半疑といった表情をしており、
「全ては、あなたが祈るという行為が重要なのです。ヒルデガルトの生まれ代わりである夏美さんが。そこに明確な言葉は必要ありません」
 タケシは笑顔で夏美を見つめていた。
「分かったわ。全力で頑張る」
 そう言うと夏美は晴れ渡った秋空の様な爽やかな笑顔でピースサインをし全員に向けた。
 タケシによると、そこまではタケシとキョウが護衛も兼ねて送ってくれるそうで、ついでなので俺たちもその場所に行くことにする。
「それでは、午後まで待機していてください」
 タケシは図面を丸め、俺に渡してから部屋を出て行った。
「ついにきたわね」
 夏美の目からは最初のような不安そうな感じは抜けており、既にやる気に満ちていた。
「なっちゃん。がんばるにゃあ、私も応援するにゃあ」
 さやかは、バシバシと夏美の肩を叩き、
「あのう、夏美さん。頑張ってください」
 昨日とはうって代わって、ノーマルモードに戻ってしまった美由は、瞳をうるうるさせ夏美を見つめていた。
「僕たちの世界が崩壊なんて大変だからね。また敵が来たら全力で戦うよ」
 福居は拳を握り締め、気合が入っているようだ。
「みんなありがとう、私がんばるから」
 夏美が全員を見渡すのと同時くらいだった。
 轟音とともに、建物が振動する。
「なんだ、地震か?」
 地震にしては、揺れがすぐ収まったぞ。
「なんだにゃ?」
「なんですかぁ」
さやかと美由が驚いている間に、またさらに轟音と少しの揺れ。