さらにどのくらい歩いただろうか、そろそろ休憩しようぜと言いかけたところで、ジャングルを抜けた。目の前には山々が広がり田舎のばあちゃんの家に来たような感じだが、もっとも、荒れ放題で未開発っぽい土地が広がっているだけだった。
 所々藁葺き屋根の民家らしきものが見えるが人が住んでいる気配はなく、ずっと放置されている様だな。
 さっきの病院といい、本当に半世紀くらい時が止まっている様な感じだ。俺が人類滅亡後の土地に向かって感慨に耽っていると、
「あそこに建物があるわ」
 夏美が指指す方向には山裾に小高い丘があり、そこにいかにも怪しげな建物がある。これは廃墟じゃないぞ、雑草が一切生えていない周辺。戸や窓もしっかりしている。他の朽ちた家と比べると、あからさまに人の手が加えられているというのがわかる。
「いかにもって感じだぞ。罠なんじゃないか?」
 俺は密かに嫌な予感がしていた。何か良くないことが起こるんじゃないかと。
「あっ、誰かいますう」
 美由が叫ぶが俺には見えない。たしか美由の視力は二.〇だったな。
「門番は一人のようですね。幸い他に人影は見えない。行くなら今でしょう」
 タケシは、言うと同時に建物の裏山に沿って颯爽と歩き出し、俺たちも続く。
 おいおい、こんなのスリル満点じゃないか。見張りに見つからずに進むなんて……今更遅いが、俺は本当にとんでもない体験をしてるんだなとしみじみ思う。
 幸い誰にも見つからず小屋の裏手まできた俺たちは、息を殺して壁に張り付き見張りのそばまで近づく。見張りが反対方向を向いた瞬間、タケシが足音を消して近づくと、相手の延髄目掛け手刀を見舞い、物騒な武器を持った門番はカクンと前のめりに倒れあっけなく気絶してしまった。
 ずいぶん簡単だな?
「こんなもんじゃないの?」
 夏美は俺の後ろから顔だけだし、セリフもないかわいそうなモブキャラAを見つめていた。
「中に入りましょう」
 タケシはそう言うと引き戸に手をあて、一気に開く。
 ――見張りは誰もいない。
 普通の古民家のような造り、土間の奥にはこれまた至って普通の部屋が広がっていた。しかし誰もいる気配がない。いたのはさっきの門番だけだな。
「誰もいないぞ、空振りだったか」
「確かにいないっすね。タケシさん。本当にここだったんすか?」
 シンの問いかけに腕を組んで考え込んでいたタケシは、
「アンゴルの座標だとここで間違いないのですが……たまたま全員外出中ではないのでしょうか」
「まあ、そうかもな。この家は他の家よりもあきらかに朽ちてないし、誰かが生活していたってのが、わかるからな」
 確かに家の中は小奇麗になっており、誰かが生活していました的な臭いがプンプンだった。
「仕方ありません。他を探しましょう」
「そうっすね」
 タケシとシンが表へ出る……って、二人は引き戸を出たところで立ち止まってしまい、俺はタケシの背中にぶつかってしまった。どうした?
「やはりですね。どうも最初からおかしいとは思ったのですが」
 俺はタケシの肩越しに前方を確認すると、どうやら俺の勘は当たっていたようだ。
 視界に入ってきたのは三十人ほどの男たちで、手にはなにやら武器っぽいものを持っており、それが安全なものではないと瞬間的に理解できる程に殺気をプンプンと漂わせているじゃねえか。
「うっひょー、お出ましっすねえ」
 シンは飄々とした表情で、敵っぽい奴らを眺めているが、こいつはこの危機がわかってるのか? 何でそんなにお気楽なんだ?
「福居さん。これを」
 タケシは小屋に入る前に倒した門番の剣を福居に手渡す、福居は剣を装備した……攻撃力が十上がったって、完全にRPGなんですけど……。
 こういうのを膠着状態と言うのか。という位の沈黙が流れ、相手のリーダーらしき奴がゆっくりと口を開いた。
「我々の思想は邪魔させない。世界は然るべき時に崩壊するのだ。さすれば、我々は輪廻の果てに完全なる生命体として復活を遂げるのだ。我々の思想は邪魔させない」
 こんな様なセリフ昨日聞いたし、さっきの病院でも見たぞ、相変わらず意味不明な連中だ。俺たちは世界崩壊なんぞ願っちゃいないんだ。
俺の望みは……いつもみたいに南校生徒会メンバーとバカをやっていたいんだ。くだらない日常だと思っていたが、今となっては妙に懐かしいぜ、俺はあの時を失いたくない。こんなところで世界崩壊させてたまるか。
「みなさん用意はいいですか? いきますよ」
 言うと同時にタケシは大人数の中に飛び込んで行く。