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そもそもの始まりは、半年前。『生徒会役員改選のお知らせ』そんなプリントが配布されたか、掲示されたかは忘れたが、毎年秋の恒例行事であるらしい生徒会選挙が近づいたある日の放課後、俺は生徒会顧問である厚木教諭に呼び出された。職員室の隅にある生徒指導室に連行され、椅子に座ると、
『まあ、座れ、茶でも飲むか?』
「はあ」
『よし、ちょっと待ってろ』
そう言うと厚木は電動ポットから急須にお湯を注ぎ茶を入れ始め、
『ほらよ』
目の前に湯のみが置かれ、やわらかい湯気が立ち上っている。しばらくは厚木と二人で茶をすする俺、半分ほど飲み終えたところで、
『よし、本題といくか』
「本題って何ですか? 俺なんかやらかしました?」
『突然だが、お前生徒会長をやってみないか』
「……はいっ? ええと、もう一度言ってもらえますか?」
『お前、生徒会長をやってみないか』
「…………もう一度お願いします」
『何度も言わせるな、生徒会長だ』
「俺の聞き間違いじゃなければ、生徒会長とかい言いませんでした?」
『その通りだ、生徒会長だ。やってみないか』
「なっ、何言ってるんですか? 生徒会なんて普通は二年がやるもんでしょ。なんで俺なんですか?」
『今年の二年では頼りないんだよ……』
言ったとたん厚木は、ハッとした表情を見せるが、直ぐに向き直り、
『なんでもない。二年では適任者がいないのでな。だから、二年は諦めてお前に頼んでいる。一年ではいけないという会則はないしな』
「だから、なんで俺なんですか? だいたい今の生徒会にも一年はいるでしょう?」
『いやいや、あいつはダメなんだ。ちょっと大人しそうだからな』
「はあ? 大人しかったらダメなんですか?」
『ダメだ。とにかく、適任じゃないんだ。だからお前やってくれ。なにせお前は四月の入学式で入学生代表宣誓文を読んだじゃないか。それで俺は全校生徒の中でお前が一番適任と思ったのだ。それに、推薦する生徒もいるしな』
たしかに、俺は入学式で生徒代表宣誓なんていう面倒な役割を引き受けちまった。でもそれは入試の時にたまたまヤマ勘の大当たりと鉛筆転がしの目が幸運だっただけで、初回の学力テストでは百五十位くらい――まあ、下の中と言った感じだ――まで急降下だったけどな。
「しかも、俺を推薦した奴ってのは誰なんですか?」
『三組の桜井だ。あいつは俺が担任だから入学以来何かと生徒会の手伝いをしてもらってたんだ』
「桜井?」
俺は、言葉を失った。

