「目を覚まされたようですね」
 タケシは部屋に入って来るなり真剣な顔で、
「刺されたと聞いた時は驚きました。でも無事で何よりです」
 俺の顔を確認すると安堵の表情を浮かべつつ、
「会長を刺した人物は特定しました。レジスタンスの者のようです。我々のようにアンゴルを頼る者達とは、その……別の組織と言いますか、終末思想者の集まりで我々と敵対しているグループなのです。全ての事象は自然と一体であると思想のもと、異相空間の消滅による世界の消失も自然な事象で、その後の生まれ変わりにより人は完全なる存在になると思い込んでいる者達なんです」
 そう言えば、完全なる生命となるとか、どうとか言ってたような気がするな。
「そんな奴らがたくさんいるのか?」
「いえ、数はそれほどいないのですが、彼等は本気で人類の滅亡を願い、再生を信じています。そのためには手段を選ばず我々に攻撃を仕掛けているのです」
「まてよ……ってことは、俺たちが異相がずれた空間を戻す為にここへ来たから狙われたってことになるのか?」
「そうだと思います。少しでも異相空間破裂回避の可能性があると思われる要因を彼らは排除しようとしているのです」
なんてこった。じゃあ、俺たちは今後も狙われ続けるってことなのか?
「今回のことはこちらのガードが甘かったせいでもあります。会長には、本当に申し訳ないことをしたと思っています。今後は施設周辺を含め、あなた方のガードを万全にしますので今回はお許しください」
 タケシは深々と頭を下げ、
「それと、さきほどアンゴルの捜査結果が出まして、会長を刺したと思われる犯人の居場所が判明したのです。そのアンゴルの捜索結果から言いますと、犯人は別の世界に逃げ込んだものと考えられます。この世界に犯人の空間データは存在していません。とするとさらに別の世界に逃亡した可能性があるということです」
「別の世界? それって、位相がずれた空間のことか?」
「いいえ、その異相空間には我々は干渉できないのです。もう一つというのは、あなた方の世界と私たちの世界、そしてもう一つ存在する場所のことなのです。ただその世界は人類が滅亡した後の世界なのです」
 既に訳の分からん体験をしている俺は大して驚かないぜ、こんな素っ頓狂な世界があるんだ。もう一つ位増えても大したことはないさ。けど人類が滅亡した世界とはどういう意味なんだ?
「その世界は、あなた方や私たちの世界と同様に文明が開けました。しかし、第二次世界大戦時に人類は滅亡してしまったのです。その世界には既に人類はいないはずなのです」
「はず……とは?」
「半年ほど前になります。定期検査の段階でアンゴルの基礎理論が漏洩していることが判明したのです。先程お話したレジスタンスが首謀しているところまでは突き止めたのですが、犯人の特定ができなかったのです。最近になりレジスタンスはその盗み出したアンゴルの力により、あなた方がこの世界に来たように第三の世界に逃亡した事がわかりました。レジスタンスは人類が滅亡した第三の世界を拠点としているらしいのです」
「じゃあ、なぜ、その世界に乗り込んで退治しないんだ」
「当時のアンゴルの力では、人間を送り込む事は不可能だったのです。あなた方がこちらに来た時のように、双方向の世界を超光学的ネットワークで結ぶ必要があり、それ以外では夏美さんの夢に現れたように思念となる他ないのです。レジスタンスは、アンゴルの基礎理論を独自に展開し、第三の世界とこの世界の間で人間を直接送り込めるネットワークを構築したと考えられます」
 
 まったくでたらめだな。何でもありか?
 
 タケシの話によると、人間を直接送り込めるのはその第三の世界とタケシ達の世界、すなわちこの世界だけであり、俺たちの世界との間にはアンゴルが防御網を展開しているので侵入できないとのことだ。まったく、ややこしい話だぜ……。
「ちょいと待った。だとすると、アンゴルの力じゃ人間は移動できないんじゃないか? こっちの世界に現れたところを仕留めるのか?」
「そこなのですが、会長が刺された現場で発見したものが異世界トリップ端末AMDTだと判明し、それをアンゴルに解析させることによって我々もその能力を得たところなのです」
 はは……科学万能万歳だなこりゃあ。俺の刺殺未遂も無駄じゃなかったみたいだな。
「明日にでもその世界へ行き、犯人及びレジスタンスを拘束したいと考えているのですが、皆さんも来ていただけますでしょうか。早いところ手を打たないと今後ますます行動がエスカレートする可能性があります。私達には特殊な能力がないので、皆さんが居てくれれば心強いのですが」
「当然だろ、俺も刺されたまんまでいられるかってんだ。やられたらやりかえさないとな」
「でも、会長は何の役職もないんだよ。大丈夫なのかい?」
 すかさず福居が突っ込んできやがった。大丈夫に決まっている。俺は南校生徒会長なんだからな。
「だから、そんな役に立たない役職でどうするのよ」
 夏美はいつもの逆切れ表情に戻っており、眉間にしわを寄せてガンをくれている。
「やるにゃあ、悪いやつをやっつけるるにゃあ、会長は見てるだけでいいにゃあ」
「大丈夫ですぉ、会長、私が守ってあげますぅ」
 さやかと美由も行く気のようだ。が、なんとなく俺って頼りにされてないのか?
「わかりました。みなさんありがとうございます。それではこれから早速、準備にとりかかりますが、私達の仲間で今回お供させていただく者を紹介します。入ってきなさい」
 タケシはドアの向こうに視線を移すと、ゆっくりとドアが開いた。なんとなく予想ができるな。タケシとキョウ、美由までまじめで大人しい性格だしな。眼鏡属性の暗そうな奴なんだろうな。という俺の想像をそいつは一瞬でぶっ壊したのだった。
「ちっす、シンっす。よろしくおねやいしやーす」
 何なんだこいつは? 全員を見渡すと、皆同じ意見のようだ。
「あなたが、美由さんっすね。はじめまして、シンっす。いやー、あの有名な美由さんに会えるなんてチョー感激っす。よろしくっす」
 そう言ってシンは右手を出すと、強引に美由と握手するのであった。
「……」