「んっ? ちょっと待てよ。俺たちをここまで連れてくるのが目的なら、俺たちが元の世界に帰る時に美由はどうするんだ? 一緒に帰れるのか?」
美由は一瞬はっとした表情をみせたが、寂しそうな目で、
「そうですね。皆さんをお連れすることで任務はもう終了しましたぁ。ですから、私があちらの世界に居る目的はなくなってしまったのですぅ。本来私はあちらの世界に居てはいけない存在なんですぅ。世界を救ってくれて皆さんが元の世界に帰る時がお別れですぅ」
「は? 何言ってるんだよ? 冗談だろ、美由は南校生徒会の一員なんだ。それが帰ってこれないなんて……生徒会はどうするんだ? 学校は?」
「それは、どうにかなりますよぉ、これは決まっている事なので変えられないですぅ。みなさんには改めてお別れの挨拶もしますし、……きっといつでも会えますよぉ」
路地裏にひっそりと咲くタンポポのように寂しげな笑顔で俺を見つめるが、まあ、確かに俺たちをここまで導くだけが任務と言うなら任務終了後は俺たちの世界に用はなくなってしまう。俺たちの世界よりも生まれた世界にいる方が美由にとってもいいことかもな、それにこれが今生の別れというわけじゃないらしいし。
「そうか、寂しくなるな。まっ、時々は遊びにこいよ。なんせ夏美のマシンガントークについていけるのは美由だけなんだからな」
美由は、「そうですね」と右目の縁を右手で縁拭いながら答えるが、そこには人口太陽の元で確かに光るものが見えた。
「もう、こんな時間ですね。私は失礼しますぅ。会長もあんまり遅くまでいると、明日起きられませんよぉ」
腕時計を見ながら美由は微笑みかけ、立ち上がると建物に向かい歩を進めた。俺はベンチに座ったまま美由の背中を見送ると、再び空を見上げた。
美由とはこの世界にいる間だけになっちまうのか、元の世界に帰るときがお別れなんて、あいつがこのメンバー集めたんだぞ、卒業まで面倒見やがれってんだ。などと、どことなく理不尽な思いが込み上げてきた。くそっ、考えてもしょうがない。なるようになるさと考え再び空を見上げた。
――どのくらい居ただろうか、さすがに睡魔に襲われかけてきている。俺は本当に異世界に来てしまったのだなという実感とともに部屋へと足を向けることにした。
来た道を辿り部屋の前まで戻ってくるが、ここは窓がなく、蛍光灯もないためかなり暗い。ポケットにしまった鍵をまさぐっていると、廊下の角から人影が急に飛び出してくるのが視界に飛び込んだ。
「なっ……」
俺が振り向く刹那、その影はおれに体当たりしてきやがった。視界は激しく揺らぎ、一瞬何が起こったか把握できなかった。
「なにしやがる」
俺は前のめりに倒れそうになる体をなんとか支えようとするが、力が入らない。
なぜだ? 腹筋がまったく機能していないようだぞ、そんな事を考えると同時にわき腹の異物に気づく。
何か柄のついたものが俺の体に押し込まれているのが見え、それがナイフだと気づくのにそう時間も掛からなかった。
「マジ……か?」
脇腹に手を当ててみると、確かに脇腹にめり込んでいるナイフの柄らしきものを感じ、手の間から生温かく、若干粘性を持ったものがわき腹から下半身を伝い床へとしたたり落ち、白い床とは対照的な赤が芸術的に広がっていくのが分かった。
「なんで俺が」
薄れゆく意識の中で、なんとかふんばりそいつのに組みつく。くっ、倒れてたまるか。揉みあっているうちに、そいつから何か落ちた気がした。
「武器か? ヤバイぞ」
考えると同時に最後の力を不振り絞りそれを遠くへと蹴りとばした。だっ、誰なんだこいつは。暗いので顔が確認できないが、「そいつ」は俺に組み付かれても振り払う素振りも見せず、呟くように、
「我々の思想は邪魔させない。世界は来たる滅亡を受け入れるのだ。しからば、我々は輪廻の
果てに完全なる生命体として再生するであろう」
何を言っているのか意味がわからないし、こんな状況はシャレにならないぞ、しかもお前は誰なんだ。なぜ俺が……。
くそっ、立ってられない。足の力が抜け膝から崩れ落ちると、俺の周りには見事な赤い池が広がっていた。
そいつは俺が床に突っ伏すのを見届けると、踵を返しゆっくりと歩き出す。
目の前の景色がフェードアウトするように白から黒へと変化していき、呼吸が半端なく速くなっている、なんなんだ息苦しいぜ。視界の四隅から、中心に向かって黒が広がるようだ。
「俺は……死ぬのか……」
ああ、最後の時ってのは、意外とあっさりなもんだ。こんなことなら、あいつに告白でもしときゃよかった。
目の前を黒が覆うまでの僅かな間、脳裏に学校生活やら生徒会活動の思い出が蘇った。なるほどこれが走馬灯というやつか。しかしずいぶんとあっさり終わっちまうもんだな。
最後に一人の女性の顔が浮かび、微笑むのと同時に俺の視界を闇が覆った。
美由は一瞬はっとした表情をみせたが、寂しそうな目で、
「そうですね。皆さんをお連れすることで任務はもう終了しましたぁ。ですから、私があちらの世界に居る目的はなくなってしまったのですぅ。本来私はあちらの世界に居てはいけない存在なんですぅ。世界を救ってくれて皆さんが元の世界に帰る時がお別れですぅ」
「は? 何言ってるんだよ? 冗談だろ、美由は南校生徒会の一員なんだ。それが帰ってこれないなんて……生徒会はどうするんだ? 学校は?」
「それは、どうにかなりますよぉ、これは決まっている事なので変えられないですぅ。みなさんには改めてお別れの挨拶もしますし、……きっといつでも会えますよぉ」
路地裏にひっそりと咲くタンポポのように寂しげな笑顔で俺を見つめるが、まあ、確かに俺たちをここまで導くだけが任務と言うなら任務終了後は俺たちの世界に用はなくなってしまう。俺たちの世界よりも生まれた世界にいる方が美由にとってもいいことかもな、それにこれが今生の別れというわけじゃないらしいし。
「そうか、寂しくなるな。まっ、時々は遊びにこいよ。なんせ夏美のマシンガントークについていけるのは美由だけなんだからな」
美由は、「そうですね」と右目の縁を右手で縁拭いながら答えるが、そこには人口太陽の元で確かに光るものが見えた。
「もう、こんな時間ですね。私は失礼しますぅ。会長もあんまり遅くまでいると、明日起きられませんよぉ」
腕時計を見ながら美由は微笑みかけ、立ち上がると建物に向かい歩を進めた。俺はベンチに座ったまま美由の背中を見送ると、再び空を見上げた。
美由とはこの世界にいる間だけになっちまうのか、元の世界に帰るときがお別れなんて、あいつがこのメンバー集めたんだぞ、卒業まで面倒見やがれってんだ。などと、どことなく理不尽な思いが込み上げてきた。くそっ、考えてもしょうがない。なるようになるさと考え再び空を見上げた。
――どのくらい居ただろうか、さすがに睡魔に襲われかけてきている。俺は本当に異世界に来てしまったのだなという実感とともに部屋へと足を向けることにした。
来た道を辿り部屋の前まで戻ってくるが、ここは窓がなく、蛍光灯もないためかなり暗い。ポケットにしまった鍵をまさぐっていると、廊下の角から人影が急に飛び出してくるのが視界に飛び込んだ。
「なっ……」
俺が振り向く刹那、その影はおれに体当たりしてきやがった。視界は激しく揺らぎ、一瞬何が起こったか把握できなかった。
「なにしやがる」
俺は前のめりに倒れそうになる体をなんとか支えようとするが、力が入らない。
なぜだ? 腹筋がまったく機能していないようだぞ、そんな事を考えると同時にわき腹の異物に気づく。
何か柄のついたものが俺の体に押し込まれているのが見え、それがナイフだと気づくのにそう時間も掛からなかった。
「マジ……か?」
脇腹に手を当ててみると、確かに脇腹にめり込んでいるナイフの柄らしきものを感じ、手の間から生温かく、若干粘性を持ったものがわき腹から下半身を伝い床へとしたたり落ち、白い床とは対照的な赤が芸術的に広がっていくのが分かった。
「なんで俺が」
薄れゆく意識の中で、なんとかふんばりそいつのに組みつく。くっ、倒れてたまるか。揉みあっているうちに、そいつから何か落ちた気がした。
「武器か? ヤバイぞ」
考えると同時に最後の力を不振り絞りそれを遠くへと蹴りとばした。だっ、誰なんだこいつは。暗いので顔が確認できないが、「そいつ」は俺に組み付かれても振り払う素振りも見せず、呟くように、
「我々の思想は邪魔させない。世界は来たる滅亡を受け入れるのだ。しからば、我々は輪廻の
果てに完全なる生命体として再生するであろう」
何を言っているのか意味がわからないし、こんな状況はシャレにならないぞ、しかもお前は誰なんだ。なぜ俺が……。
くそっ、立ってられない。足の力が抜け膝から崩れ落ちると、俺の周りには見事な赤い池が広がっていた。
そいつは俺が床に突っ伏すのを見届けると、踵を返しゆっくりと歩き出す。
目の前の景色がフェードアウトするように白から黒へと変化していき、呼吸が半端なく速くなっている、なんなんだ息苦しいぜ。視界の四隅から、中心に向かって黒が広がるようだ。
「俺は……死ぬのか……」
ああ、最後の時ってのは、意外とあっさりなもんだ。こんなことなら、あいつに告白でもしときゃよかった。
目の前を黒が覆うまでの僅かな間、脳裏に学校生活やら生徒会活動の思い出が蘇った。なるほどこれが走馬灯というやつか。しかしずいぶんとあっさり終わっちまうもんだな。
最後に一人の女性の顔が浮かび、微笑むのと同時に俺の視界を闇が覆った。

