こちらの世界での生活は、なかなか快適なもので、施設内の居住空間に用意された俺たちの部屋はやたらと広く天井も高い。
 妙にリアルな絵画が多数飾られていて不気味だが、それを除けば豪華ホテルのスイートルーム並だな、行ったことはないがその位分かるぞ。
 さらに、その中にも部屋がいくつかあり、俺・福居、夏美・さやか・美由で分かれることになった。まっ、当然の班分けだがな。
 その日の夜――。
俺たちはリビングに集合している。
「ここは快適だにゃあ、食事もおいしいし、おもしろいゲームもたくさんあるにゃあ」
 さやかはうれしそうに、良くわからないこちらの世界オリジナルのテレビゲームに熱中しており、
「食事は三ツ星シェフが作ってるらしいわよ。あとでレシピを聞いとかないと」
 夏美は、棚に置いてあったスナック菓子をほお張りながら、すっかりリラックスした様子だ。
 おいおい、すっかりまったりモードになっちまったけど、五日後には、こっちの世界と俺たちの世界の運命を握ることになるんだぞ。少しぐらい緊張しろよ。
「いいじゃない、ここまで来たら何でも来い! って感じだわ。気持ちに余裕を持たないとね」
 さすがは夏美だ。この度胸の据わり方、少しは見習いたいものだな。
「しかし、約束の地って言うのはどこにあるのですか。タケシから聞きましたか?」
 何か考えているような素振りを見せる福居だが、
「何も聞いてないわよ。その時がくれば教えてくれるんじゃない? 今聞いて緊張するよりも、直前に聞かされた方がいいかもね」
 あくまで夏美は強気だ。こんな奴に世界を任せても平気なのか、こっちが不安になるぜ。
「さっ、そろそろ寝ましょう。会長、のぞいちゃダメよ」
 真剣な顔で睨まれた。俺はそんな気はないのだが。
 夏美の言葉を合図にしたように、俺以外のメンバーは部屋へと戻るが、俺はというと覗きを企てているわけではなく、こんな明るくては寝れないのだ。部屋の電気を消しても窓から差す明るい雰囲気に、とてもじゃないが眠りにつくことはできない。時刻は夜十一時五十分を回っているしな。話相手がいなくなった俺は、廊下に出て施設を見物することにした。
 部屋と廊下とを隔てる重いドアを開け見渡すと、どこか大企業にでも来ちまったかのようなシンプルな廊下、そして扉の群れが視界に入る。やはり学校じゃなく研究施設という感じで、廊下には蛍光灯が点いているが、どことなく薄暗い。
 しばらく歩き、角を曲がると突然眩い光に包まれた。そこは南向きに窓があり、通用口らしき扉の向こうからは人工太陽の光が燦々と差し込んでいる。そういえばこの世界は夜がないんだよな、夜が来ないのは少し寂しいかも……などと、少々の感慨に耽けながらドアを開け中庭らしきところへ向かい空を見上げた。なるほど自然の太陽の光と変わらないが、人工太陽の上には漆黒の闇の空間が広がっているな。あれが塵の層というやつか。
 俺はしばらく天を仰いだまま見慣れない景色をベンチに腰を下ろしぼんやりと眺めていると、
「隣、いいですかあ」
 突然の声に若干慌てたが、後ろを振り返ると、美由が笑顔で立っていた。
「どうしたんだ? いきなり」
 俺の言葉を肯定ととらえたのか、隣のベンチに腰を降ろす美由。
「いきなりこんな事になっちゃって、本当にすみませんでしたぁ」
 いつもの舌足らずの言葉でそう言って深々と頭をさげる。
「もういいよ、起こってしまったものは仕方が無い。それに世界が俺達にかかってるらしいんだからな。やる事をやって帰るだけだ」
「そうですね。私もそこまでは知らされていなかったので、ビックリですぅ。でも、危ない目にあって皆さんが怪我でもしたら……私の責任ですぅ」
「気にするなよ」と言うも、また泣き出しそうだ、話を変えないとな。
「そういえば、俺を生徒会長に推薦したのは美由だったな。まさか、あの時からこんな事になちまうとはな。でも、夏美が生徒会長でも良かったんじゃないのか?」
「いいえぇ、夏美さんではダメでしたぁ、夏美さんが生徒会長になってしまうと、他の人を副会長に指名しちゃう可能性があったのですぅ。だから生徒会長は会長にお任せしなくてはならなかったのですぅ」
「そうだな。夏美が生徒会長に立候補してたら、美由とかが副会長をやらされていて、俺は生徒会にすら入ってなかったかもな。でも、あの時は美由にまんまとやられたな。あんな真剣な表情でお願いされたらいくら俺だってあっさり落ちちまうぜ」
「そうですかぁ、エヘヘ」
 照れたような表情で微笑みかける美由。
「しかし、だ。俺には何の役職もないんだぞ、さやかは黒魔術師、福井は剣士って、俺にも何か役職が欲しかったぜ。と言うか本当に俺で正解だったのか?」
「はい、間違いないですよぉ、アンゴルの指示は絶対なんですぅ。そのアンゴルが会長を指名したのですから、会長は無くてはならない存在のはずですぅ。タケシに聞きましたけど、会長は役職があるというかぁ、夏美さんの鍵になる存在らしいので、頑張ってもらいたいですぅ。私もできる限りの事はしますですぅ」
「そっか、美由にそう言ってもらえると心強いよ」
 なんだか、女子にそこまで信用してもらったのなんて初めてだからなんだかこそばゆい感じだ。