夏美…大魔術師(ヒルデガルト)
さやか…黒魔術師
美由…白魔術師
福居…剣士
俺…なし
激しくベタだがみんなお似合いの能力だな。それぞれの、長所というか、性格まで加味されてる様な気がするな、まるで漫画や小説の世界みたいだぜ。
……んっ? ちょっと待て、何で俺だけなしなんだ? 一般人ってことか、村にいる普通の村民クラスなのか? 当然だが異議を申し立てるぜ。なんらかの役職をもらえないと、すぐにやられるぞ。当然ヒットポイントは少ないだろうからな。
タケシは頭を捻りながら考え込むように、
「おかしいですね。全員に能力があるはずなのに、なんで会長さんにはないのですか」
そんなことは俺が聞きたい。全員をまとめあげる会長だぞ、俺は南校で王のように君臨する象徴のような存在なのに、この世界では洋ナシかよ。ラ・フランスかっ。ひねくれるぜ。まだ、遊び人でも肩書きが付いていた方がいいぞ。
「まあまあいいじゃないか、そのうち適職が見つかるよ」
さわやかな笑顔で福居が言うが、ここは職安か! 激しくスネる、俺。
タケシの説明によると、もうひとつの空間が臨界を越えるとされる時間、いわゆる“約束の時”とやらは、アンゴルによる超光学的位相計算によると五日後の午後三時四十八分四十七秒ということだった。
五日後って、ゴールデンウィークが終わっちゃうぞ。学校では大騒ぎだな。
「生徒会全員行方不明」なんて、教師陣は大慌てじゃないのだろうか。無事に戻れたとしても、厚木の説教は免れないかもな。
しかしまあ、世界の終わりが掛かってるんだ。そんな事は言ってられないぜ。
約束の時までは待機期間らしいので、俺を除く他のメンバーは、自分の能力の解明をするそうだ。要は自分に備わっている能力を目覚めさせることらしい。まっ、無職の俺には関係ないがな。
俺たちは武道場のような広間で自己啓発を行うこととなった。俺は無職な上にすることがないので、全員の様子を見て歩くだけだが。
「かいちょう~、見てにゃあ」
さやかの声に振り向くと同時に火の玉らしきものが火の尾を揺らし俺に向かって飛んでくるじゃねえか。危ねえ。間一髪、上体を後ろにそらしいつか見た映画のように火の玉を避けた。
何しやがる、俺はHPの少ない一般ピーポーなんだぞ。そんなものくらったら教会直行じゃねえか。
「魔法が使えたにゃあ。楽しいにゃあ」
さやかはあちこちに火の玉を投げつけている。こいつは放火犯も真っ青だぜ。しかしさやかはこういうのは得意だな。としみじみ感心していると、
「わっ、わっ、ひええーん」
後ろの方で美由の泣き声が聞こえた。どうした?
「会長、私には火の玉出ないんですかあ」
涙目の美由は床にうずくまり、半ばいじけたような顔で俺を見上げた。
「お前は白魔術師なんだから、火の玉はでないだろう、仲間の傷を直すのが得意なはずだ」
「そうなんですかあ、美由がんばります」
よろよろと立ち上がり、再び何かを考えこむように遠くを見つめた。
部屋の隅では夏美が瞑想していた。何を念じているんだろう?
「きっと、私たちで世界を救うということだろ」
福居はなにか物騒な武器らしきものを持ちながらいつの間にか横に立っており、若干ではあるが目が勝ち誇っているように見える。ちくしょう、元の世界に戻ったら会長権限で雑用専属係にしてやるからな。
「さすが、大魔術師様が選んだお仲間だ。もう能力をものにしている。ある種驚きですね」
全員を見渡しながら、タケシは目を細めた。
「約束の時はそう遠くはないので、頑張ってもらいたいです」
タケシの隣にはキョウも来ており、俺たちに希望を託すような顔で皆を見つめている。
「会長さん、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ、俺が一般人だからって、人体実験でサイボーグにでもしようってのか?」
「いえいえ、違うお話です。お付き合い願えますか」
福居のようなスマイルで見つめられてもなあ、俺はその気は無いのだが。
俺達は別室へと移動し、部屋に入るなりタケシは、
「私は、あなたが何の能力も持っていないことに驚いてるんです」
ゆっくりとソファーに腰を降ろし、話を切り出した。
俺もそうだ、ここまで来ちまったら俺も何か職業が欲しかったぜ。雑用係でもいいが。
「冗談は置いといて、正直に申し上げましょう、これはあくまで私の考えですがあなたは大魔術師様の鍵となる方だと思っているのです。いいですか、アンゴルの予言では絶対なのです。アンゴルの予言にあなたがいるということは、あなたも何らかの能力を持っているということになります。スキャンではあなたに何の物理的能力は発見されなかった。ということは、あなたは大魔術師様の内面を守る能力を持っていると考えられます」
「内面を守るって言われても、そんな物質化してないものは守れないだろうよ」
「そうではなくて、恐らくこれから大魔術師様が傷つき――この場合の傷というのは精神的なものですが、その傷ついた精神を守るのがあなたの役目なのだと考えられます」
「そんなことを言われても、気の利いた呪文もわからなければ慰めの言葉も持ってないぜ」
「呪文だの、言葉だのは必要はないと思います。アンゴルも、精神的支えが必要なのではないかという結論ですから」
「という事は、俺は夏美の応援団か何かという事か?」
「そうではありませんよ。大魔術師様に危機が訪れた時が、あなたの出番だと思うのです」
タケシは、さわやかな顔で、
「その時がきたら、わかると思いますので会長の思う行動をとってください。よろしくお願いします」
そう言い残すと静かに部屋を出て行った。
しかしけったいな事件というか状態というか、とんでもないことに巻き込まれたもんだ。俺たちに世界の運命が掛かっているのだからな。ソファーに腰を下ろしながら、
「俺にどうしろって言うんだ」
天井に向かって自嘲気味に呟いた言葉が白で統一された部屋の中に霧散した。

