なつよん ~ある生徒会の平凡な日々~

「直径約十五キロの隕石が、光速の約一%の速度で地球に衝突しました。衝突により巻き上げられた塵が成層圏まで達し、塵で出来た新たな層が太陽の光を遮り、以後我々は太陽の光を見ることはできなくなってしまったのです。人類の半数は衝突の衝撃で瞬時に消滅し、生き残った我々も氷河期と言うにふさわしい時間を過ごしてきました。しかし人工太陽の開発により、ひとまずは地球上に光が復活したのです。昔の真夏のような暑さはありませんが」
 じゃあ、今俺たちが見ているのは人工太陽とやらの光なのか? 夜なのに。
 俺は、半ば「冗談だろ」的な目でタケシを見ていた。というか、そう見るしかない。
「人工太陽は、消すことは可能ですが、光を失った途端に地表は凍りつきます。まっ、人工太陽が地球の凍結を防いでいるようなものですね。ですから、我々の世界は常に昼なのです。夜がくるということは、人類の滅亡と同義なので」
「じゃあ、もし、何らかの不具合で、人工太陽が故障するようなことがあれば、速攻で滅亡じゃないか」
「ご心配なく。人工太陽は何重ものバックアップシステムに守られています。システム障害が発生してもすぐに復旧できますし、ご安心ください」
 タケシは、微笑(と言うのか?)を浮かべながら答えた。


 なんてこった。よりにもよって、こんなトンデモ世界からオファーが来るとはな。


「でも、その話と、私たちがここへ来た事は関係あるのですか?」
 夏美は俺の後ろで首を傾げていた。
 タケシは、少し言い渋るような顔で、
「そうですね、本題といきましょうか……」
 どうやら、少しどころか、大いに言いにくいらしい。
「これから、私が言うことはあなた方にとって信じられないでしょうが聞いてください」
 全員を見渡すと静かに口を開き、
「魔術師という言葉をご存知でしょうか。魔法使い……と言えば聞こえはいいですが、魔法使いよりも学的な技術体系を持っているのが魔術師です。魔法使いよりも実務に長けたのが魔術ですね」
 言っている意味がさっぱりわかりませんが。いきなり魔法使いだの魔術師だのって言われても今の俺たちは散弾銃をぶっ放された小鳩のような間の抜けた表情になっているのだろうな。俺たちのアホヅラを他所にタケシは続ける。
「その魔術師ですが、古来より実在したと言われています。彼らはそれぞれに特徴的な魔術を用い、人々を救い、時に信仰の対象にもなったとされています」
 本当に素っ頓狂な話だな。いきなりそんな事を言われても頭がついていかないぜ。しかもこの期に及んで宗教論とはね、どういうことだ。俺達がここに来たのと関係があるのか?
「まあまあ、とりあえず話を聞こうじゃないか」
 福居はやけに落ち着いた感じで、ヒステリック小学生をなだめるように俺を制し、
「話を続けてください」
 お前は、大人だな。俺とは精神構造が違うみたいだぜ。本当は高校生じゃないんじゃないか?
「では、続きをよろしいでしょうか」
 タケシは大きく息を吸い込み、
「単刀直入に申しましょう。梅村さん。あなたは、四大魔術師『ヒルデガルト・フォン・ビンゲン』の生まれ変わりなのです」


「…………」


「はあ?」