俺は頭の中に「?マーク」が飛び交っている。皆も同じだろう、全員がオイラーの多面体定理を聞かされた小学生のようにポカンと口を半開きにさせていた。夜中の高校にいたはずなのに、ここはどこかの研究施設だと言いやがった。何がなんだかわからないぜ。誰かこの状況を説明できるやつはいないか?
 混乱する俺たちを横目にタケシとやらが、にこやかな笑顔をつくり、
「ここはあなた方の世界ではありません。時間軸は同一のものですが全く異なる世界です。我々にとっては、こちらが現実世界で、あなた方の世界が異世界なのです」
「何言ってやがる。ここは、俺たちの世界じゃなく異世界だと? そんなことはいはいと信じられるか。それとも何か? 俺たちは生徒会室であの光るサイトを見ることによって、へんてこな世界にワープしちまったとでもいうのか?」
 俺の疑いの目に臆することなく、タケシは、
「その通りです。あなた方の世界と我々の世界をネットワークで繋ぐ必要があったのです。双方向からの同時アクセスにより満月の力を借りてあなた方はこちらの世界へ移動したのです。そうですね、二本の平行線を想像してみてください」
 タケシは、二本の線を壁に書き、そのうちの一方を指で差しながら、
「この二本の線は交わることなく、同一の方向に向かって進んでいます。これが私たちのいる世界、そしてこちらがあなた方のいた世界です。つまりあなた方は元の世界から、こちらの世界へ時空移動したわけです。もっともこの線は二本とは限りませんが」
 タケシとやらは、片方の線からもう一方の線に向かい指を動かしながら答えた。
 ちょっと待て、そんな突拍子もないことを言って、俺達を混乱させないでくれ。ここが異世界だなんて信じられないし、百歩譲って時空移動としてしまったとしても、なぜ俺達なんだ?
「あなた方は、私たちのメッセージを受け取ってくれ、夜十二時にあの部屋に来てくれた。それに我々には梅村さんの力が必要なんです」
「えっ?」
 夏美は驚いた表情を見せ、
「なっ……なぜ、私なんですか、私は、普通の高校生ですけど……」
 いつものような強気な態度は垣間見れず、すっかり戸惑った様子で、タケシとキョウを見つめていた。
「今はまだ、混乱なさっているようですね。落ち着かれてからお話しましょう。こちらへどうぞ」
キョウと名乗る女性が俺たちを案内するように部屋を出ようとする。とりあえず従うかとドアに向き直ると、なぜか美由をじっと見つめていた。何だ? タケシとやらと言い、なぜそんなに美由を見つめるんだ? 俺も美由の方を見ると、いつもはビビリ全開でこんな目に合った日にゃあ、大泣きだろうなと思った俺の視界に入ってきた美由はいつもの美由らしからぬ。真剣な表情だった。どうなっているんだ? まあ、気にしない事にしようと廊下に出た俺たちは、さらに驚愕の事実を目にすることになる。
 廊下から見える外の景色が、南校から見える田園風景そのままだったのだ。田んぼの配置、格子状の畦道、まさに、今朝まで俺たちがいた光景が広がっているじゃないか。違うところと言えば、そこに建っているのは通いなれた南校ではなく、訳のわからん建物がそびえ建っているって事だけだ。
「なんじゃここは」
 俺は素直な感想を漏らし、本当に別世界に来てしまったような感覚に刈られた。
「みてにゃあ、学校から見るいつもの景色にゃあ」
 さやかは目を真ん丸くしている。
「どういうこと? この景色はいつも私たちが登校してくる景色だわ」
 夏美も目の前の光景が信じられないようだ。
 もう、何もかもでたらめだな。本当に異世界とやらに来てしまったのか? 夢なら早く覚めてくれよな。