「――ちょう、会長」
 ん? 誰かが呼んでいる気がする。聞き覚えのある声だ。取り戻しつつある意識の中で、うっすらと目を開くと夏美が必死に俺を揺さぶっていた。
「よかった。気がついた。もう、目を覚まさないかと思ったじゃない」
涙目の夏美は、安堵の表情を浮かべて俺の肩を揺らしていた。
 他の連中はどうした、無事か? 俺が見渡すより先にさやかが、
「みんなは無事にゃあ、会長がさいごだにゃあ」
 と相変わらずな舌ったらずなアニメ声だ。
 なにが起こったんだ? 俺たちは真夜中の生徒会室でモニターを見てたはずで、光がぐるぐる回って、気を失って……。
 とすると、俺たちは強烈なサブリミナル効果で気を失ったわけだ。まったく、誰だこんな手の込んだサイトをつくりやがったのは、健康によろしくないから、当局に通報してやる。
まあ、意気込んでみたものの、ここで言う当局がどこの局で、何を取り締まっているところかは、見当もつかないけどな。
 なんてことを言っている間に周りを見渡した俺は背筋が凍り付く感覚を覚えた。ここはどこだ? 生徒会室にいたはずの俺たちはどこか別の部屋にいるみたいだ、生徒会室には南向きに大きな窓があり、当時は月明かりが煌々と差していたし、壁の本棚には学校の歴史やら部活動の資料や生徒会誌がずらっと並んでいたはずだ。
 それが今いる部屋は……壁の上に天窓があり、太陽らしき光が燦々と差し込んでいるじゃないか。ドアの他には至って普通の窓、天井には蛍光灯が一つ付いていて、他の備品は見当たらず部屋の真ん中に机がありデスクトップパソコンっぽい躯体が置いてあるだけの質素な部屋だった。ビジネスホテルでももう少し物があるぜ。
しかし――どこだここは? 俺は言われるまでもなく混乱している。
 まさか本当に夏美の夢の通り本当に違う世界に来ちまったのか? 信じられないが、周囲を見渡す限りマジッぽいぞ。
「ここはどこ? 私たちは生徒会室にいたのよね……」
夏美が不安そうに俺を見つめる。
「それに朝になってるにゃあ」
 さやかは、得意のギャルゲーをしているときの様な目で、キョロキョロと周りを見渡していた。
 とりあえず外の様子を確認するために部屋を出よう。混乱している頭をさますべく、顔を手で三度ひっぱたいてから全員を促した。
 俺が先頭で部屋を出ようとドアノブに手をかける。――って、ここで、カギがかかっていて閉じ込められるのは漫画の世界だけにしてもらいたい。的なことを考えていると、目の前のドアがゆっくりと開いた。
 そこに現れたのは見知らぬ男女だった。背の高いさわやかそうな男とロングへアーの似合う女性。こんな奴らは見たことないぞ、教師陣にもいなかったはずだ。おれが不審者を見るような目で見ていると、後ろから夏美が、
「あっ、あなたは」
 全員が事態を把握できずに夏美を見つめると、夏美の表情は昔生き別れた兄弟かなにかと十数年ぶりに再会したかのように青ざめていた。
「なっ、夏美、この連中知ってるのか?」
「……うん……夢の……」
「まっ、まさか夢の中に出てきたっていうのは」
「そう……」
 夏美は小さく頷いた。
 なんてこった、訳のわからん所へ来ちまうっていう緊急事態になったと思ったら、さらに訳のわからん事になったぞ、この二人が夏美の夢にでてきた連中だと? どういうことだ?
見知らぬ二人は笑みを浮かべ、男の方がやわらかく微笑みゆっくりと口を開き、
「私たちのメッセージを受け取っていただいてありがとうございます。私はタケシ、彼女は、キョウ」
 二人は優しそうな表情で俺達を順に見つめ、何故か美由の所で小さく頷いた。それは注視していなければわからない程度で。俺は頭の混乱がMAXゲージに突入しそうになるのを押さえ、冷静にと言いきかせ深呼吸をしてから、
「あんたらは、何者なんだ、なぜ南校にいるんだ?」
 二人は少し驚いた表情で、
「ここは、あなた方の高校ではありません。私たちの研究施設です」


「??」