満月の夜は意外にもすぐにやってきた。それは黄金週間イヴの日、つまり五月二日である。ホームルームでは、担任が休み中の心得等を諭していたが、俺は聞く耳もたず。なんつったって今夜俺たちは学校に忍び込むんだからな。
 ホームルームが終わり、すっかり連休モードまっしぐらになった山本と徳永が揃ってやって来て、
「よお、帰りにゲーセンでも寄ってこうぜ。おっと、その前に飯食わないとな。徳永はどこがいい?」
「俺はどこでもいいぜ、でもあれだな。かわいこちゃんがいるハンバーガー屋とかがいいな」
「おっ、それいいね。そこにするか、お前も行くだろ?」
 山本は俺に視線を移し、ニヤケ顔をしていた。
「悪い、これから、生徒会の会議なんだ」
「会議って、明日からは連休なんだぜ、会議なんて休み明けでいいじゃん」
「大事な会議なんだ。だから二人で行ってくれ」
「待て、その会議って、桜井も出るんだよな? まさかお前ら休み中のお出かけの計画か?こしちゃいられないぜ、山本、俺たちも出席しようぜ」
 今度は徳永が訳のわからん事を言い出した。
「おう、そうだな」
 山本よお前も乗るな。ちなみにお前らは生徒会会議とは何の関係もない一般生徒だ。この勢いじゃ本当に参加しかねない。こいつらを参加させるとややこしい事になりそうだから、とりあえず適当に言っておこう。
「生徒会誌の編集会議だ。お前らも書いてくれるってのなら、参加してもいいが」
「うーん。桜井の姿を拝めるのはありがたいけど、面倒だな。ゲーセン行くか山本」
「そうだな。文章書くなんてダルイよな、じゃあな」
 そう言うと、二人はハンバーガーショップにいるらしいかわいこちゃんの話をしながら教室を出ていった。結局こいつらは美由だけが目当てなんじゃないのか?
まあ、いっか。俺は鞄を持つと生徒会室に小走りで向かった。これからの会議は今夜の打合せをする予定になっているらしい。しかしカッタルイ話だ。
 生徒会室にはすでに他のメンバーが到着しており、美由が入れたコーヒーを一口すすると、俺は今晩の行動を全員に話し始めた。
「いいか、まず十一時に正門前に集合すること、正門は施錠されてないから、門を開けて侵入する。こんな田舎の県立高校にはガードシステムなんぞはないから余裕だな。ここであらかじめ開けておいた一階女子トイレから生徒会室まで行くんだ。宿直制度もないからわりとすんなり入れると思うが。それと、一応制服で来た方がいいかもな。もし見つかったら、生徒会主催の行事の打合せということにしよう。まあ夜にいる時点で怪しいけどな」
 全員が顔を揃えて密談している姿は異様だ。しかも、俺以外の四人はキャラが濃いからな。端から見れば過激派か何かがよからぬ事をたくらんでいるように見えるんじゃないのかと、少し不安だ。
 などと物思いに耽っていると、生徒会室の扉が突然開き生徒会顧問の厚木が入ってきた。全員が一斉に顔をそらし、嘘くさい演技を始める。
「何だお前ら、明日から連休だってのに何の会議だ?」
「いっ、いやあ、何でもないです。来月の生徒会誌のことで……」
 とっさに訳のわからん事を言ってしまったが、厚木は納得した表情で「邪魔したな」と言い残し、生徒会室を後にした。
「みんなごめんね。私の夢なんかに付き合ってもらっちゃって」
 厚木の背中を見送ると、いつもは強気が信条の夏美が珍しく申し訳なさそうな表情で全員を見つめていた。
「気にすることはないよ。夏美さんの元気がないことの方が、僕たちにとっては違和感があるからね、これで原因が究明されれば夏美さんもぐっすり眠れるでしょ」
 カッコつけたつもりか、福居は前髪を片手でさらりといつぞやのアイドルのようにかき上げた。