翌朝、俺はいつもと変わらず教室に向かって校舎内を闊歩していると、前方になにやら下を向いて憂鬱そうに歩いている人影を発見した。夏美である。
「よう、おはよう」
俺は夏美の肩を軽く叩き、爽やかな挨拶を繰出してみるが、いつもの夏美の反応はなくその代わりに返ってきたのは大きな溜息一つのみだった。夏美の目の下には今にも冬眠から覚めて暴れ出しそうなクマが装備されており、
「ハァ、オハヨウ」
「なんだなんだ、そのロボットみたいな返答は、おまけに今日はヒグマが生息しているじゃねえか」
夏美のつっこみを期待しているとそれは拍子抜けとなり、不機嫌そうな表情で、
「あーもう、眠いったらありゃしないわ! 夕べは全然眠れなかったのよ。まったくもう、あれは誰なの? 目の前に現れたらタダじゃおかないわ!」
夏美は頭をくしゃくしゃとかきながら、相変わらずヒグマを飼育したまま、がに股歩きで俺と一緒に歩き出し、昨日話した夢をまた見たこと、今度は知らない男の他に女の人が出てきたこと、二人は必死にこの世の危機だとか話し、結局気になって眠れずに朝を迎えてしまったことをマシンガンのように喋り倒した。
「まあ待て、ここで話をしてもしょうがないから、生徒会室で聞くよ。他のメンバーもいるからみんなでその夢を考えるとしよう」
俺が諭すように言うと、しぶしぶ夏美は同意し、肩を怒らせがに股歩きのまま教室に入っていった。
う~む。夏美の夢は何を表してるんだろうか。最初はとんちきな妄想話かと思ったが、連続で見るってことは普通じゃないな。しかも登場人物が増えてるところが妙にリアルだ。何かのテレビ番組の影響か? 夢なんぞ所詮夢だ。放っとけば見なくなるんじゃないか? 夢のおつげなんて説は非現実的だしな。
でもまあ、現実に寝不足って言う弊害が出ている訳で、夢の話よりこっちをどうにかしないといけないな。
そんなことをぼんやりと考えているうちに授業が全て終わり、放課後となる。ああ、今日も授業の内容覚えてないやと後悔しても後の祭りさ。
掃除当番の山本と徳永を横目に生徒会室に早足で向い勢いよくドアを開けると夏美が机に突っ伏していた。どうやら寝ているらしく、その様子を不思議そうに覗き込むさやか。美由はコーヒーを入れており、福居は今日はいないそうだ。
美由とさやかを着席させると、俺は夏美が見たという夢を話し始めた。
知らない奴が夢に出てきて、「助けてくれ」だとか、「あなたは希望だ」とか、言ったこと、それが昨夜は二人に増えていたことを、だ。
二人はぽかんと口を開いている。そりゃそうだろな、こんな突拍子もない話を聞かされても、「……」の三点リーダーみたいなもんだ。はたしてこの二人は信じるのか?
少しの沈黙のあと、さやかは目をキラキラさせ、嬉しそうに、
「面白そうな話だにゃあ。うんうん、なんか、なっちゃんがこの世の女神様みたくなったわけだにゃ?」
こいつは、全然心配してないな、むしろ楽しそうだ。どっかのアニメキャラと夏美が被ってるんじゃないのか。
俺はもう一人の反応を見ようと視線を向けると美由は目をパチクリさせながら、夏美をじっと見つめたまんまフリーズしていた。まあ、美由がキョトンとするもの無理ないな。理解するのに時間がかかるだろうからな。そんなことより夏美の対策だ。夢ということは寝なければいいことだが、さすがにそれは体力的にきついだろう。それとも、いきなりノンレム睡眠になるような催眠術をかけるか? いやだめだ。俺には催眠術は使えない。そんな訳のわからんことを考えていると、さやかはパソコンにむかって流暢に指を動かし始め、
「私が対処法を探すにゃあ。ネットになんか載ってるかもしれないにゃ」
さやかは、あらゆるページを開いては、どんどんそのリンクをたどって行っている。まったく、オタクもここまでくれば立派なもんだな。なんて感心しているそばから、さやかはさらに煌びやかな目をさせキーをタイプし、乾いた音が生徒会室に響いた。しばらくの後、さやかは残念そうに、
「うーん。だめだにゃ、どこにもそんな不思議な体験をした人の話はないだにゃ」
どうでもいいが、そのにゃあ言葉はどうにかならんのか。
「まあ、そう簡単に発見できたら苦労はないさ」
と、あきらめ気味の俺に対し、ううーん。と小声が聞こえ、夏美が目を覚ましたらしい。
「……あれ? 会長いたの? はっ、まさか私の顔にいたずら書きしてないでしょうね!」
そう言って手で顔をさすり確認をし始めた。
「するわけないだろ!」
「怪しいわね。美由。本当に大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよぉ」
美由に言われて初めて安堵の表情を見せるが、そんなに俺が信用できないのか? って言うかそんな事をしてたら、俺の生命が危機に晒されてるぜ。
「それよりも、あの夢の対処なんだが、さやかに探してもらってもやっぱいい方法はみつからないそうだ」
「そう」
と言って肩を落とす夏美。
「よう、おはよう」
俺は夏美の肩を軽く叩き、爽やかな挨拶を繰出してみるが、いつもの夏美の反応はなくその代わりに返ってきたのは大きな溜息一つのみだった。夏美の目の下には今にも冬眠から覚めて暴れ出しそうなクマが装備されており、
「ハァ、オハヨウ」
「なんだなんだ、そのロボットみたいな返答は、おまけに今日はヒグマが生息しているじゃねえか」
夏美のつっこみを期待しているとそれは拍子抜けとなり、不機嫌そうな表情で、
「あーもう、眠いったらありゃしないわ! 夕べは全然眠れなかったのよ。まったくもう、あれは誰なの? 目の前に現れたらタダじゃおかないわ!」
夏美は頭をくしゃくしゃとかきながら、相変わらずヒグマを飼育したまま、がに股歩きで俺と一緒に歩き出し、昨日話した夢をまた見たこと、今度は知らない男の他に女の人が出てきたこと、二人は必死にこの世の危機だとか話し、結局気になって眠れずに朝を迎えてしまったことをマシンガンのように喋り倒した。
「まあ待て、ここで話をしてもしょうがないから、生徒会室で聞くよ。他のメンバーもいるからみんなでその夢を考えるとしよう」
俺が諭すように言うと、しぶしぶ夏美は同意し、肩を怒らせがに股歩きのまま教室に入っていった。
う~む。夏美の夢は何を表してるんだろうか。最初はとんちきな妄想話かと思ったが、連続で見るってことは普通じゃないな。しかも登場人物が増えてるところが妙にリアルだ。何かのテレビ番組の影響か? 夢なんぞ所詮夢だ。放っとけば見なくなるんじゃないか? 夢のおつげなんて説は非現実的だしな。
でもまあ、現実に寝不足って言う弊害が出ている訳で、夢の話よりこっちをどうにかしないといけないな。
そんなことをぼんやりと考えているうちに授業が全て終わり、放課後となる。ああ、今日も授業の内容覚えてないやと後悔しても後の祭りさ。
掃除当番の山本と徳永を横目に生徒会室に早足で向い勢いよくドアを開けると夏美が机に突っ伏していた。どうやら寝ているらしく、その様子を不思議そうに覗き込むさやか。美由はコーヒーを入れており、福居は今日はいないそうだ。
美由とさやかを着席させると、俺は夏美が見たという夢を話し始めた。
知らない奴が夢に出てきて、「助けてくれ」だとか、「あなたは希望だ」とか、言ったこと、それが昨夜は二人に増えていたことを、だ。
二人はぽかんと口を開いている。そりゃそうだろな、こんな突拍子もない話を聞かされても、「……」の三点リーダーみたいなもんだ。はたしてこの二人は信じるのか?
少しの沈黙のあと、さやかは目をキラキラさせ、嬉しそうに、
「面白そうな話だにゃあ。うんうん、なんか、なっちゃんがこの世の女神様みたくなったわけだにゃ?」
こいつは、全然心配してないな、むしろ楽しそうだ。どっかのアニメキャラと夏美が被ってるんじゃないのか。
俺はもう一人の反応を見ようと視線を向けると美由は目をパチクリさせながら、夏美をじっと見つめたまんまフリーズしていた。まあ、美由がキョトンとするもの無理ないな。理解するのに時間がかかるだろうからな。そんなことより夏美の対策だ。夢ということは寝なければいいことだが、さすがにそれは体力的にきついだろう。それとも、いきなりノンレム睡眠になるような催眠術をかけるか? いやだめだ。俺には催眠術は使えない。そんな訳のわからんことを考えていると、さやかはパソコンにむかって流暢に指を動かし始め、
「私が対処法を探すにゃあ。ネットになんか載ってるかもしれないにゃ」
さやかは、あらゆるページを開いては、どんどんそのリンクをたどって行っている。まったく、オタクもここまでくれば立派なもんだな。なんて感心しているそばから、さやかはさらに煌びやかな目をさせキーをタイプし、乾いた音が生徒会室に響いた。しばらくの後、さやかは残念そうに、
「うーん。だめだにゃ、どこにもそんな不思議な体験をした人の話はないだにゃ」
どうでもいいが、そのにゃあ言葉はどうにかならんのか。
「まあ、そう簡単に発見できたら苦労はないさ」
と、あきらめ気味の俺に対し、ううーん。と小声が聞こえ、夏美が目を覚ましたらしい。
「……あれ? 会長いたの? はっ、まさか私の顔にいたずら書きしてないでしょうね!」
そう言って手で顔をさすり確認をし始めた。
「するわけないだろ!」
「怪しいわね。美由。本当に大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよぉ」
美由に言われて初めて安堵の表情を見せるが、そんなに俺が信用できないのか? って言うかそんな事をしてたら、俺の生命が危機に晒されてるぜ。
「それよりも、あの夢の対処なんだが、さやかに探してもらってもやっぱいい方法はみつからないそうだ」
「そう」
と言って肩を落とす夏美。

