翌日、昨日が遅かったから眠気のピークはあるものの、ここでサボったら俺の生命の危機が訪れるかもしれんな。幸い明日は休日だから睡眠は明日に回すとするか。
 放課後になり、生徒会室に集合した俺たちは全員で問題の本に見入っている。「道を知れ」と書かれたその本は、中世ドイツの女預言者が書いた物語を和訳したものらしい。
「こりゃ何なんだ?」
 小難しい言葉が並んでいるな、中世の出来事なんぞにまったくもって興味はないし、書いてある内容がさっぱりわからん。
 なんでこの本なんだ? たまたま落ちただけなのか?
「なんでだろうにゃあ? 不思議だにゃあ」
 さやかは顔を傾けて何かを考えている素振りをし、腕を組み悩んでいる表情の福居は、
「何かのメッセージなのか、たまたま落ちただけなのか、細かく見てみる必要があるね」
 そう言うとまた考え込んでしまった。
「あれ、こんなところに栞がはさんでありますぅ」
 昨日はビビリモード全開だった美由だったが今日は復活しているようで、美由の指摘の通り、栞がはさんであるページを全員が覗き込んだ。
「なんだこりゃ、幻視体験?」
 俺は、とりあえず栞の挟んであるページを開き文章を読んでみる。なになに……。


「生き生きした光の影」が現れて、その光の中に様々な様相が形となって浮かび上がり輝いた。炎のように言葉がヒルデガルトに伝わり、また見た物の意味付けは一瞬にしてなされ、長く、長く記憶に留まった。


 こんなところか。しかしさっぱり意味がわからん。
 ふと夏美に視線を向けると、
「…………」
 首を傾げ複雑な表情をしていた。
「どうした?」
「ううん、なんでもない。こんな話初めて見たはずなんだけど、なんか……どこかで聞いた事があるような気がするのよね」
「こんなのをか? どこで? なかなかこんな話は聞く機会がないぞ」
「いつ誰から聞いたかって言うのはぜんぜん覚えてないんだけど……なんとなく昔から知っているような気がするのよね」
 なんじゃそりゃ、不思議な事を言うもんだ。
「ん……きっと気のせいよね。気にしない、気にしない。うん、うん」
自分に言い聞かせるように頷き、表情はいつもの夏美に戻ったようだ。
「あのぅ、それで結局オバケはどうなったのでしょうかぁ?」
 こじんまりしたカラクリ人形のようにコーヒーを運んでいた美由が疑問を投げかけると、
「うーん。写真の光は気になるけど、美術室には何もいなかったしね。今回は残念だけど幽霊はいなかったと思うのが妥当だと思うわ」
 残念そうに呟く夏美。
「でも今度はいるかもしれないわね。またみんなで探しに行きましょう」
 何言ってやがる、こんなこと何回もやってたまるか。
「オバケさんいないのかにゃあ、残念だにゃあ」
 こっちはもっと残念そうだ。
「でも今度の生徒会誌にはこの心霊写真が載せられるね」
 福居は、デジカメのデータをプリントアウトした紙を見ながら、
「スクープだね。南校生徒会心霊と遭遇、なんて、来月の生徒会誌が楽しみだよ」
「この写真を載せるんですかぁ、恥ずかしいですよぉ、ねえ夏美さぁん」
「そうね、美由。私の目も赤光りしちゃってるし、お蔵入りにしましょう。それに、他の生徒がこぞって夜中に心霊探しされちゃ生徒会としても困るしね」
 夏美が福居の写真を取り上げ、二つに折り自分のファイルに挟み込んだ。
「そんな。来月の原稿は楽に書けると思ったのに」
 福居よ。そんなもので生徒会誌を発行できると思ったのか? もっと生徒のためになるような、ちゃんとしたネタを考えろ。
「そう言えば美由聞いて、ウチのクラスの男子がさあ……」
「なんですかぁ……あはは、おかしいですねえ」
「にゃあ、こないだのゲームが途中だったにゃあ」
 雰囲気がいつもの生徒会室通りに戻ったようだ。
 ここの生徒会は女子三人衆に支配されているな。やれやれ、会長は俺だぞ。と、心の中でツッコミを入れつつ、その日は散会となった。