ところで、いきなり七不思議だの振られた他の連中は、
「にゃ? 七不思議にゃ? 七不思議と言ったらトイレの花子さんだにゃあ、花子さんに会いたいにゃあ」
 さやかはオモチャを買ってもらえる約束をした子どもの様に部屋の中を飛び回り、
「えっ、えっ、七不思議ですかぁ、怖いですう」
 美由は夏美にひっつき、涙目になっていた。
「いいじゃない美由、美術室に出る幽霊なんて面白ろそうだわ! これは探しに行かないと。来月の生徒会誌の見出しはこれで決定ね!」
「オバケ怖いですぅ、あっ、夏美さあん。オバケはオバケの話をすると寄ってくるんですよお、オバケこわいですう」
 半泣き状態の美由は夏美に引っ付きながら既に意味不明だ。
「大丈夫よ美由。オバケなら私がやっつけてあげるわよ」
オバケオバケと騒がしい奴らだな。まあオバケだの幽霊だの七不思議ってのは、だいたいその人の見間違いや作り話なんだ。都市伝説ってやつだな。そんなの居るわけねえし、不思議な事なんて起こるはずもねえ。もし、そこらへんにウヨウヨ居るってんなら、みんな目撃してもっと大騒ぎになってるだろうよ。
「でも、面白そうな話だね。僕は興味があるよ」
 福居は、読んでいた漫画を棚に戻しながら、
「肉体と魂は別ものという考えによれば、肉体が滅びても魂だけが生き残るという現象があってもおかしくないと僕は思う。だとすると肉体を失った魂が彷徨う可能性はあるよね」
 何言ってやがる。幽霊だの怨念ってのは妄言だ。恐怖心が幽霊やら幻覚を見せるに決まっている。幽霊を探す特番だって結局最後は見つからないだろ。
「会長は、幽霊とか信じてないの?」
 夏美は不思議そうに俺を見つめ返すが、こいつはオカルトマニアだったのか? 信じるわけねえ。俺は超現実主義者なんだ。オバケだの霊だなんてのは、インチキ臭いスピリチュアルなんたらにでも任せておけばいいじゃないか?
「夢がないわねえ……」
 おい、なんだその、「可愛そうなものを見る目」は! 超現実社会を生きる一員としての考えだぞ。実に率直なまでの意見じゃねえか。
「まあ、いいわ。夢がない人は放っておいてこれから探しに行くわよ! 幸い明後日は振り替え休日だから今日遅くなっても明日一日頑張ればお休みだから大丈夫でしょ? さあ、オバケ探しにレッツゴー!」
 夏美は天竺をあっさりと見つけちまった法師様のような極上のスマイルを全員に向け、勢い良く右手を突き上げていた。
「何言ってやがる。正気か?」
「私はいつでも正気よ。オバケの正体を突き止めて生徒会誌に載せれば面白いじゃない。それに学校の謎を解明するのが生徒会の役割でしょ」
 こんなのは生徒会の役割じゃねえと思うのは俺だけか?
「オバケさがしにゃ? 楽しみだにゃあ、オバケさんに会いたいにゃあ」
「面白いアイディアだね」
「えっ、あっ、あのう、本当に探しに行くんですかぁ、怖いですぅ」
 こいつら、何言ってやがる。やたら楽しそうだぞ。反対しているのは、俺と美由だけだ。
 夏美は大きな瞳をさらに輝かせながら、
「じゃあ多数決ね。行きたい人!」
 夏美、さやか、福居が勢いよく挙手し、賛成三対反対二であっさりと決まってしまった。まったくどうなる事やら。
「ふえ、夏美さぁん怖いですぅ」
「大丈夫よ、美由。オバケが出たら私がやっつけてあげるから。すごく楽しみね」
 やれやれしょうがない奴らだな、でも念のために聞いてみるか。
「俺は行かなくていいか?」
「何言ってるの。あんたアホ? 会長でしょ!」
 意味不明な理屈により俺も強制参加となってしまった事は言うまでもないだろ。