四月。桜。今日も晴れ。


「キーワード的にはこんなもんか」


 窓の外に広がる桜一色の風景を見ながらぼんやりと一人言を言ってみた。


 新しい生活に胸躍る――なんてのは一年前の入学式当日だけで充分であり、二年生になると言っても、無駄に年を食ったなという感覚と教室が三階から二階になるって事しか感じられないね。

 街のはずれにある田園風景ど真中の学校で明日からはまた学校が始まり、俺たちは何の感慨に耽ることなくエスカレーター式に二年生になるって訳だ。


 この一年間、いやいや、今の今まで俺はうすらぼんやりと生きてきたし、おそらくこれからもそうで、これは断言してもいいだろう。不思議な事柄が起こって学園生活が百八十度ぐるりと変わってしまうなんて面白い事はそうそう起こらないもんだよなあ。


 人生は平々凡々と人それぞれ決まっていて、そのレールに乗ってみんな生きているのさ、俺ら凡人はそのレールを全員同じスピードで歩くだけ。もっと言うなら人生のシナリオは決まっていて俺らはそのシナリオ通りに人生を演じていく訳じゃないのか。


 明日明後日起こる出来事ってのも運命と言う名の基に決まっているとも思う、規定事項ってやつだな。まあ、中にはレールに乗らず破天荒な人生を送っている奴もいるだろうが、そんな奴はごく少数だ。少なくとも俺の人生ではそんな奴に遭遇していないね、全員が敷かれたレールの上をただまっすぐに歩くだけに決まっている。
 

 しかしまあなんだ、こんな現実的な事を考えている俺でも少なからず人生のレールから外れてみたい的な事を考えていなかった訳でもない。「不思議な事は起らない」と頭では理解しているものの、一ミクロンぐらいは憧れだって持ってもいいだろ?


 例えば、実は魔法使いで悪の枢軸と戦ってみたり、謎の転校生が現れて「実は超能力者でした」的な物語や、もうひとつの世界が存在していていきなり異世界なんぞにすっ飛ばされる並みの冒険浪漫譚的な事件が起こったり、とかだ。
 

 高校生活に多大なる期待と希望を抱いていた一年前の俺なら、そんな妄想全開で、端から見たら「ちょっと痛い奴?」みたいに思われないか若干の不安はあるものの、北の台地に広がる牧場の様に広大な期待を持っていたのだが、結果から言うとそんな「不思議な出来事」的な物語や冒険談は皆無であった。


 まあ、当然と言えば当然かな。なにせ、不思議な奴どころか誰一人として転校なんてしてこなかったし、パラレルワールドに行った記憶もない。女子の制服姿を超精神集中して凝視しても透けて見えるなんてことは無かったし、朝学校へ行って授業を受け、速攻で帰ってバラエティーを見て寝る。なんてループを一年も過ごしてしまった訳だ。
 

 こんな生活した結果から導き出された結論は、魔法やタイムトラベルなんぞやっぱ存在しないし、そんなのはテレビや小説の中の世界だけであり今、俺がいるのは至って普通の平穏な世界だったって事だけだ。


 と、言うわけで、何の感慨もなく一年前に高校生になった俺はこれからは凡人は凡人らしく定められたレールの上をのらりくらりと進んで行こう。卒なく卒業して大学かどっかに進学してしがないサラリーマンにでもなってやるさと半ば自虐的に意を決したはずであったのだが、生徒会長なんて役を押付けられたあたりから若干の雲行きが怪しくなってきやがった。俺の平々凡々的予定の学園生活が徐々に遠のいて行く気がするぞ、なんせあいつらに出会っちまったのだからな。