1限のLHRが終わり、次の授業の準備をするために教科書を机の中から取り出した。
引き抜いた教科書の上に乗ってた四つ折りにされた紙。
ノートを切り取ったもので線のメモリがついている。
開くと大きな字で
《大事な話があるので昼休み中庭にて待つ。田中》
と書かれていた。
今時らしくない文章。
そもそも田中って...誰?
「そーれで、今日中庭でお昼なのね!」
夏葉は今朝机に入っていた手紙を持ちながら右手にもつ箸で卵焼きを口に運んだ。
1人で行くのはなんか怖いし、本当に田中って人が来るか分からないから夏葉に居てもらうことを選んだ。
「てゆーか、これ告白だったりして」
「えっ!?」
「だって、大事な話って書いてあるし。でも、美月には彰人がいるからフられちゃうのか〜」
「まだ告白って決まったわけじゃ...」
てゆうか...あれ?
「待って。夏葉気付いてたの...?」
「んえ?美月が彰人好きなこと?んなの見てれば分かるっての!」
ぇえええ...。
夏葉ってば、自分のことには疎いくせに人のはすぐに気付いちゃうのか。
「でも、ちゃんと自覚してるんだね。よかった」
「自覚...。好きだなって思っただけで、私、どうしたらいいのかまだ分からないし」
「かっわいいなぁ!こいつぅ!」
夏葉は笑顔で私に飛びついた。
ギューっと抱きしめられる。
「ちょっ、夏葉くすぐったい!離して」
「えぇー?なんでよぉいいじゃん。恋した美月はかっわいいんだから♡」
恋が分からなかった。
恋する気持ちが分からなかった。
夏葉や美加子が羨ましかった。
私、今、2人みたいなオンナノコになれてるかな?
「咲宮さん!」
ベンチに座る私と夏葉の前に勢いよく眼鏡をかけた男子生徒が現れた。
夏葉も気付いて私から手を離した。
「あー!田中って田中君じゃん!」
夏葉は目の前の田中君に指をさす。
「相変わらず失礼な人ですね羽崎さん。人を指さすのはどうかと思います」
田中君はかけている黒縁の眼鏡をくいっと上にあげた。
「じゃあ美月の机に手紙を入れたのは田中君だったのか」
「いかにも。だからこうしてここに居るんです。2人で話せませんか咲宮さん」
「えっ、あ、はいっ」
田中君が敬語だから私もつい敬語になってしまった。
