あの休日から既に七日が経とうとしていた。依然として、何かが変わることもなく日々は過ぎ去ってゆく。
 和春も周りと同じように仕事を淡々とこなしていた。

「相変わらずつまらなそうな顔をしているな」
「え?ああ、藤の中将様でしたか」
「その他人行儀ぶりも変わらないようだ」
「もともとこういう性格なもので」

 和春の前に姿を現したのは、既に仕事を終わらせたのであろう藤の中将だった。

「内大臣殿の息子であるお前がこんな日陰にいてどうする」
「落ち着くんですよ、ここが。それに、左大臣様の息子には敵いませんよ」
「俺の後を任せるのはお前しかいないがな」

 二人の関係は妙なもので、年齢こそ近いもののほとんど接点など存在していなかった。
 二人が出会ったのは数年前に行われた春宮殿での催しだった。公の場に滅多に参加しない和春が、春宮に請われ出席した際に、隣同士だったことがきっかけで今の関係に繋がっている。

「それより、貴方の妹は上手くやっていますか。春宮様に会ったのですが何だかつまらないご様子でしたよ」
「あー……何だ、アイツは少し気が強くてな……。春宮様とはちょっとばかり合わないんだろう」
「春宮様は左大臣家の娘を迎えるのを心待ちにしていたようでしたが……見当外れだったようですね」
「俺とは半分しか血が繫がってないからなあ。そう言われても怒りも沸いてこないよ」
「薄情な兄ですね」
「何とでも言え。俺も参ってるんだいろいろと」

 そう零す中将の顔はどこか疲れたような印象を抱かせる。いつもは快活な中将の見慣れない表情に和春は声を落として問いかける。

「何かあったんですか」
「いや……無いことは無いんだが……身内でちょっとな。ま、俺が勝手に怒っているだけなんだ。そのうち話すよ」
「そうですか。体調崩さないようにしてくださいよ。貴方の空きは誰も埋められないんですから」
「はいはい。今度宴でもしよう。絶対来いよ」
「気が向いたら」

 中将は呆れたような、それでいていつもの和春に安堵しているような表情を見せ、その場を去った。妹のところへ顔を出しに行くのだろう。
 和春は春宮坊の役職に就き、父である内大臣の敷いた道を順調に歩んでいた。きっとそろそろ縁談の話が来るだろう。これまではまだ仕事が始まったばかりだからとかあれこれ理由をつけて断っていたが、もうそれも通用しない。小さくため息を吐きながら残りの仕事を終わらせ帰る支度をする。

「あ、次官殿、春宮様がお呼びですよ」
「……今向かいます」

 帰ろうと立ち上がったところを春宮に呼ばれ、またかと和春は思いながら返事を返す。
 困ったことに、春宮は妃を迎えてからほぼ毎日和春を呼びつける。