「何、和春殿にも想い人が出来たのか」
「姉上、何口滑らせてるんですか」
ついつい楽しくなってしまったのか、姉は横に座る夫に和春のことを報告していた。
「良いじゃないの。同じ男同士、良い助言がもらえるかもしれないじゃない」
「その助言をしたとして、後が怖いな」
「嫌ね、そんなんで怒ったりしないわ。まあ詰め寄っちゃうかもしれないけど」
「俺には同じように聞こえるんですが」
「同感だ」
大してお酒が入っていないのにも関わらず、上機嫌で男たちの背中を遠慮なく叩いてくる。手に持っていた盃の酒を零さないように気をつけながら、歓談をする。
次第に眠気が襲ってきたのか、夫の肩にもたれながら曖昧な返事をし始める。そしてついに規則正しい寝息が聞こえてきた。
「自分から張り切っといて一番最初に脱落するんですよね」
「子どもの頃からそうなのかい?」
「ええ。散々振り回しといて、とばっちりをいつも食らっていましたね」
少しだけ不満の表情を見せながら酒を口に含む。開いた盃に間髪入れずに酒を注がれ、苦笑いしつつも、相手にも酒を注ぐ。
「奔放なのが彼女の良いところではあるけどね」
「苦労してません?」
「いや、むしろ助けられてばかりだよ。なんだかんだいって面倒見は良いだろう?」
「あー、まあ、確かに」
心地よい秋風が頬を撫でてゆく。もう少しで十五夜がやって来る。それまでに仲直りをして、2人で月を眺められるだろうか。
「ところで、和春殿の想い人について気になるんだけど」
「似た者同士ですねあなた方は」
「褒め言葉と受け取っておこうかな。で、彼女に助言を求めたんだろう?解決しそうかい?」
「結局、姉上が一番正しいんですよ。子どもの頃、姉上に逆らってみたことがありますが、尽く上手くいかなくて、一生逆らえないと思いましたね。そういうことです」
「そうか」
「ええ」
夫の方も経験があるのか、納得したように酒をあおる。そんな様子に、一体何をしたのか気になって質問すれば、和春にしか聞こえない声で詳細を打ち明ける。その話に、和春は堪えきれず笑いを漏らした。さすがは姉上だと思わず手を叩いてしまっていた。
「それからは、この人の為に人生を捧げても良いと思っているよ」
ふ、と目線を下げて、未だ深い夢の中に沈んでいる姉を優しい表情で見つめる男の姿に、和春は自分もそうだと実感させられていた。
なぜ、迷ってしまったのだろう。責めるような言葉で彼女を傷つけてしまった。和春の表情に男の視線が向かった。

