春宮殿を追い出された和春は一度内大臣邸へと戻る。しばらく、と言ってしまった手前、すぐにあの邸へ向かうことは気が引けた。
今日はやめておこう。そう決めて和春は昨日より幾分か雲が多い空を眺める。
「相談できる相手もいないしなあ」
ぽつりと漏らされた心情はたまたま居合わせた女房のみが知るところとなる。
「和春様、恋愛のことでしたら姉上様がいらっしゃるではないですか」
「姉上なあ……しかし、からかわれる未来しか想像できない」
「それはまあそうですけれど、心置きなく相談できるとしたら姉上様ではございませんか?」
和春の発言を否定しないあたり、和春の姉の性格を知っているなとどこかぼんやり考えながら、だらだらと紙と筆を取る。
「これを姉上のところに」
「かしこまりました」
手紙を出して数時間とあけずに、返事が来た。噂好きの姉は面白い話が降って湧いたことですぐにでも邸に来いと手紙に記していた。
ため息を吐きながら、重い腰を上げる。
「紫、少し出掛けてくる」
「お一人でよろしいですか」
「ああ。姉上のところに行ってくる」
その言葉に些か渋い顔をした紫に苦笑しながら、素早く着替えを済ませる。どうも紫も自分も姉の性格が苦手であった。その美しさに似合わず豪快な性格は、多くの人を惹き付けると同時に幾多の男たちを泣かせてきた。結婚できたことが未だに信じられない。
「姉上、和春です」
挨拶をして、御簾の内へ入る。そこには相変わらずの美しさを伴った自信に満ちた女が座っていた。黙っていれば美人、とはこういう人を指すのだなとどこか他人事のように考える。
「久しぶりね」
「はい」
「で、何をしたの?」
互いの体調を聞くことなく本題に入ってくる姉に僅かながら呆れつつも、隠し事などできないことを知っている和春は正直に起こったことを話した。
はっきり言って、居心地が悪い。邸の主人が主人なら女房も女房なのである。噂好きしかいないこの空間では、和春はもはや話の種そのものなのであった。
「それで?」
「え、いやだから、どうしたものかと悩んでるって話ですよ」
「そうじゃなくて。貴方は今どう思ってるの?聞かせてちょうだい!」
確実にこの人は詳細を知って、後々夫や友人に話すつもりであることをその目が、態度が物語っていた。
「何でそこまで教えなくちゃいけないんですか」
「面白いからに決まっているでしょう!」
周りの女房も興味津々で同意のうなづきを返す。少しは自重するという気持ちはないのだろうか。そんな風に内心悪態をつきながら言わないとどうなるかを知っている身では、観念して己の心情を吐露する他なかった。

