「今日は天気がいいなー!」
「和春(かずはる)様お待ちください、いくら休みと言えどもこんなところまで来るなど……」
「細かいことを言うな紫(ゆかり)。久々で身体が鈍っているんだ、付き合え」

 馬にまたがり颯爽と駆ける和春は開放感からかどこまでも駆けていくように見えた。その後を紫と呼ばれた男性が静止を促しながら追う。

「全く、貴方様のような身分の方はもう少し慎み深く行動していただきたいものですよ」
「今日くらいは大目に見てくれ」
「いつもそのようにおっしゃっている気が致しますけどね」

「よし、後少し先に行くとするか」
「あ、和春様!」

 紫のお小言を交わすかのように和春はまた馬を走らせる。
 陽気な太陽が照らす中、楽しくてたまらないと言う具合に和春の表情は晴れている。

 やがて行き止まりに当たり、ふと顔を上げると立派な桜が咲いていた。こんな場所に桜が咲いているのかと彼の口から感嘆の声が漏れる。その桜に見入っていると、途端、強風が訪れた。

「うわ……っ!」

 想像よりも強い風に目を思わず瞑る。咄嗟に顔を覆った袖の隙間から覗くと、風に巻き込まれた桜の花びらが見事に舞っていた。

「……綺麗だ……。」

 馬から下り、惹かれるように桜の元へと歩を進める。
 前日雨が降っていたせいか、しっとりとした地面が静寂を深めていた。


「……誰だ?」


 近づいていくと桜の根元に白い布をまとった人影が見えた。

「死んでいる、のか?」

 透き通るほど白い肌には生気が感じられない。その姿はさながら桜の精のようだと和春は思った。
 思わず、その場に膝をつき彼女の頬に触れる。

「……っ……」

 わずかに表情が歪んだのを和春は見逃さなかった。

「おい、しっかりしろ。目を覚ませ」

 だがそれきり何の反応も得られない。元来面倒見の良い和春は、放っておけず倒れている女を抱き上げ馬に乗せる。
 身に纏う衣服は雨に濡れたのか冷たく、このままでは本当に死んでしまいそうな予感さえさせた。

「死ぬなよ……!」

 自身も馬に乗り踵を返す。

「あぁこちらにいらっしゃいましたか、本当捜しましたよ……和春様?」
「邸に戻る。急ぐぞ」
「え?あ、またですか?!お待ちください!」