視線の先で二人が穏やかに庭を歩いている。一体これはどういうことなのか。紅葉は訳の分からないまま、二人を見つめつつ部屋を調えていた。
先ほどまであんなに怯えていた主人の表情は、すっかり元通りで、むしろいつも以上に具合が良さそうだった。
「何があったのかしら」
考えたって無駄だと分かっていても、主人のことならば何でも知っておきたいという思いであれこれと邪な想像をしてしまう。
「紅葉」
「はい!」
「そろそろ戻るから休む準備をしてくれないか」
「分かりました。すぐに用意いたしますね」
二人が立ち並ぶ姿は前々から抱いていた理想通りの姿であった。どんなにかこの日を待ちわびていたことか。ただ、そこにある二人を包む空気が愛ではないことを除いてなのだが。
想い合っていた二人は、何故かその気持ちをどこかに置いてきたようで、愛というよりは親愛の方が強いように感じられた。あの春宮様が諦めたと見るのが妥当なのかと、動きだけはてきぱきと紅葉は半ば上の空で準備を進めていく。
「紅葉」
「はい」
「これは一体どういうことなんだ?些か多いような気もするのだが」
「え?あら、本当ですね。すみません、いつもの癖で」
いつも部屋では数人で過ごすことが多く、この部屋には三人しかいないのにも関わらず、目の前にはざっと五、六人分の用意がされていた。慌てて二人分に取り分けて、再度目の前に差し出せば、春姫は楽しそうに笑っている。春宮も余程紅葉の慌て方が面白かったのか、優雅でありながらも笑いを堪えきれずにいた。
「何ですか、二人して」
「宮中にいるときのすました紅葉を見ているから面白くてね」
こうして並んでいる二人はお似合いだというのに、本当に何があったのか。気になって仕方がないことが顔に出ていたのだろう。春宮が察したように事の経緯を説明し出した。
「安心しなさい。私たちの間には何もないよ。悔しいが、和春は良い男だ。離れていた歳月を優に越えて真剣に彼女に向き合ったのだろうね。少しだけ意地悪なことをしてしまったが、これくらいは許してもらわないとな。何せ、春宮の想い人を妻に迎えるのだから」
「まあ……。ご存じだったのですね」
「権力というものは実に便利で不便なものだね」
春宮が是と言えば是となるであろう恋のことでも、和春を責めずに諦めるという選択を取った春宮に紅葉は感動する。相手を思いやることこそが愛なのだと、紅葉はその時気づいた。どんな形であれ、春宮の想いは春姫に届いたのだろうし、それに返した春姫もまた、一つの恋の形として終わったのだろう。
紅葉は二人を隔てるものは少しずつなくなり、主人に絡まる縁の糸がほどけていくのを感じていた。

