「さ、こちらからお入りください。お静かに」
そろりと几帳の裏へと回り、春宮は息を潜める。
「春姫様へ挨拶して注意を逸しますので、その隙にご覧なさってください」
「分かった。ありがとう」
女房が進み出て、春姫へと報告を行う。春姫からは何の返事も聞こえない。部屋に灯るわずかな明かりだけが春宮の元へと届いている。
そっと、布をずらし、春宮は部屋の中を伺った。視線の先に夜着を身に着けどことなくくつろいだ様子でいる女を見つける。成長して大分雰囲気が変わっていたが、確かに、そこにあるのは愛しい者の存在であった。
想像よりもずっとずっと美しく成長しており、春宮の胸は高鳴っていた。この人を、自分のものにしたい。傍に置いて、笑ってもらいたい。そんな感情が春宮を支配する。もうそこに恐れや罪悪感などは無かった。
バサリと布を払い、立ち上がる。
「あ、な、何をなさって……!」
女房の口を抑え、目の前で驚いた表情で見上げる彼女を見つめる。少し怯えているのか、後ずさろうと後ろを振り返って後退する。
「すまない。手荒な真似をする気は無いから逃げないでくれ。」
びくりと肩を揺らし、恐る恐ると言った様子で春宮に顔を向ける。笑えばきっと美しいその顔は、恐怖が滲んでいた。だが、それさえも美しいと感じてしまう。
今まで押さえつけていた欲と言うものが次々と現れてきて、我ながら強欲だなと笑いが漏れる。
「ずっと、君に会いたかった。どうか近くで確かめさせてほしい」
強張ったまま、首を僅かに振る春姫。自分が誰か分かっていても、夜更けに男が現れたら怖いものだろう。それでも、自分の中に渦巻く欲が留まることを承知しなかった。
「数日ここを空ける。そなたは着いてきなさい」

