しばらくお互いを見つめていると、春姫は手元に置いていた紙を手に取り、紅葉に伝える。
『紅葉は元気にしてた?』
「ええ、ええ。藤子様が居なくなってから辛いこともありましたが、藤子様に恥を見せることは出来ませんでしたので元気にしておりましたよ」
『ありがとう。会いに来てくれて』
「そんな……!私はこれからもお傍にお仕えしたいというのに……許されるのなら」
気を落としたような声色に春姫の表情が歪む。紅葉は先程の言葉が失言だと悟り、慌てて言葉を選ぼうとするがそれ以上の答えが見つからない。
「藤子様」
『なあに?』
「私の主人はただ一人、藤子様だけなのです。本当はずっと、後悔しておりました。もし……もし許されるのなら……また、お仕えさせていただけないでしょうか。私にとっての幸せは藤子様のお傍にいることなんです。」
暗がりの中でも分かる紅葉の真剣さに春姫はじっと手元を見つめる。あの時に手放したのは自分の方であるのに、紅葉が自分を責め続けていたことに胸が痛む。紅葉の幸せを願っていた自分が、一番分かっていなかったと気付かされたようだった。
ほんの少しだけ、心に芽生えた自分の我が儘を伝えてみてもいいのかもしれない。そんな風に春姫は思っていた。
『私も本当は紅葉に居てほしかったの。でもそれは私の幸せであって貴女の幸せじゃないと思ってた。紅葉が望んでくれるなら私も貴女に居てほしい』
「藤子様……もちろんです」
これまで自分の望みを口に出したことなどほとんど無かった春姫が自分を求めてくれている。その事実だけで紅葉はもう何もいらなかった。
ぼんやりと照らされる明かりのもと、紅葉の前で優しく微笑む春姫は、他の誰よりも美しかった。
その後、しばらくの間は療養も兼ねて春姫と共に別荘で過ごしたら良いとの提案もあり、紅葉は別荘に残ることになった。
「春姫のことよろしく頼む」
「はい」
翌日、和春と中将は別荘を立ち、紅葉は再び春姫の傍へ仕えることが出来た。
再会してから紅葉は春姫の変化に気づく。
「藤子様は何だか変わられましたね」
『そう?どこらへんが?』
「前よりも表情が豊かになられました。それから健康的に。」
きっと自分では春姫に変化をもたらすことは出来なかっただろうなと紅葉は心のうちで考える。
それを引き出したのは他でもない和春であった。紅葉の中で和春という男は彼女を幸せにできる重要な人物かもしれないという位置づけになっていた。そこで紅葉はある質問を投げかける。
「藤子様は和春様のことをどうお思いなんですか」
その問いに春姫の動きが止まる。しばらく目を泳がせた後、ほんのりと頬を赤らめた。

