春姫が中将と再会してからの後、中将は左大臣邸の時や会えなかったこれまでの分を埋めるかのように足繁く暇が出来ては訪れていた。和春よりも頻繁に。
「中将様、いくらなんでも主人の私を差し置いて会うのはどうかと思うのですが」
「仕事が早く終わるんだ。少しでも藤子を甘やかしてやりたいんだよ」
和春が嫉妬心から諫めようとするのだが、それを知ってか知らずか毎回難なくあしらわれてしまう。春姫から届く手紙には彼女も喜んでいる様子が書かれているのであまり強くも言えないのだ。
「あ、そうだ。お前に頼みがあるんだ」
「何でしょうか」
「そんなに怒んなって。妹にずっと仕えてた女房が居るんだけど会いたいと言っているんだ。もしお前が良いならまた傍においてやりたいと思ってる」
和春はじっと中将を見つめる。春姫からは一言もそんな話を聞いていなかったのだ。
「その女房は今どちらに?」
「春宮妃の方へ仕えていたんだが、春宮様が気に入ったのか何だかで今は春宮様の元にいるよ」
「……少し時間をください。彼女に関しては慎重にいきたいのです」
「分かった。良い返事を待っている」
そう返事をし、そそくさと中将は退出する。きっとそのうち中将は妻に小言を言われかねないなとその様子を見て和春は呆れたような笑みを浮かべた。
先程の話はまず、紅葉という者に直接聞くべきだと和春は思った。目の前にある仕事を終わらせて春宮の元へと足を向けた。
「すみません。紅葉という女房へ取り次ぎを願いたいのですが」
和春が声をかけると近くにいた女房たちが黄色い声をあげる。密かに和春は器量良しとして女房たちから人気があるのだ。それを知らない和春は自分はそんなに珍しいものだろうかと不思議に思いながら紅葉を待った。
「紅葉は私ですが、何かご用でしょうか」
御簾越しに紅葉の声が届く。その佇まいと話し方は気品があり、和春は感心する。
「春宮殿次官の和春と言います。中将様から貴女のお話をお聞きしました。貴女の主人であった方に会いたいと言うことでしたが……」
すぐに紅葉は、藤子を囲っている人物が目の前で話す男であることに気づいた。彼には藤子を救ってくれた恩があるが、愛などという話は紅葉にとって別のことだった。
「ええ。手放してしまった自分が許せないのです。可能なら愛する主人のお傍でお仕えしたいと思っております。今一度、藤子様にお伺いしていただけませんか」
「そなたの意思は汲み取った。……本当に大切なのだな。分かった、聞いてみよう」
「ありがとうございます」
互いの腹の内は探り合いで、真意は見えなかったが、二人が想うその先の人物への愛は確かであった。
和春は邸へ戻ると春姫に訪問する旨の文を書く。
「これを春姫へ」
使いの者に手紙を渡し、和春は仰向けに倒れそのまま天井を仰ぐ。
この一週間は忙しく暇を見つけることが出来なかった。明日こそはと和春は思い、穏やかな空気の中で微睡みに身を任せた。

