雪解けが進み、だんだんと暖かくなってきた頃。

 左大臣邸は騒がしかった。


 2日後に元服を迎える春宮の元へと、左大臣の姫である紅子(こうこ)が入内することになっているからだ。

 衣装や調度品などを揃えるために慌ただしい音が響く。


 そんな様子とは正反対に、ひっそりと、与えられた部屋でその様子を見守る姫がいた。


「藤子(とうこ)様。何か、やりませんか?双六とかはいかがですか?」

 藤子、と呼ばれた姫が頷くと乳母子の紅葉は立ち上がり用意をする。

 彼女の視線は御簾の外の光景へと向いていた。
 無意識のうちに唇を噛む。


 もし、春宮の元へ入内するのが自分であったら……と、起こるはずのない期待をしてしまう。