遠距離片想い。



4月1日、



あれからずっと山口くんと連絡を取り合っていた私は、この日彼の家に遊びに行くことになりました。



「お邪魔しまーす。」
「ただいまー。」


山口くんに連れられて彼の家に入ると、

「あら、こんにちは〜」

と彼のお母さん。


とても明るくて感じの良い、素敵な女性だと思った。




「部屋、こっちな。」

そう言われて、階段を上がるとすぐの部屋に案内された。


本棚には教科書や参考書、机の前には写真立てがいくつも並んでいた。

低いベッドには爽やかな色合いの布団と枕、テーブルに置かれたパソコン。

初めて、高校生の男の子の部屋に入った。



「ほら、座れよ。」

言われた通り、私はベッドに腰掛けた。



彼は横に座ると、途端にキスをせがんできた。



「……やだ。」
「いいじゃん、一緒に寝た仲なんだから。」

「あれは不可抗力。」


少しの間、流れた沈黙。




「ねぇ、なんか付いてる。目瞑って、」

「いや嘘でしょ。」



「ねぇ、ほんとほんと、目瞑って」


彼の手が顔に近づいたので、私は咄嗟に目を閉じた。



途端に視界が暗くなる。


唇に感じた、柔らかい感触。




目を開けると、にやりと微笑む彼の顔。


「ばか……。」


「もしかして、初めてだった?」


手慣れたキスをした彼が、私を見据える。

「んなわけ……、」



正直になれない私が嘘をつく。


初めてにきまってる……。







こうして私のファーストキスはこの日、


彼女持ちの男の子に奪われたのです。







そしてその時私はどこかで、

見えない彼の彼女に怯えていました。



これって浮気じゃん。ありえない。最低だ自分。

そう思いました。



けれど私はもう既に、彼の虜になってしまっていたのです。



「……じゃあもう1回、そっちからキスしてよ。」


「…ん…、わかった。……」




ねぇ神様、


今日はエイプリールフールです。



これはエイプリールフールから始まった偽りの恋なのです。


だから見逃してほしい、なんて言ったらバチが当たりますよね。



でも、それでもいいかな。と思ってしまったんです。



私はもうこの時、彼の中に溺れてしまっていたのだから。