「音声ガイドは、いかがですか?」
美術館の係員さんが、PRしてまわっている。こちらは、男性の職員さんだ。
「ありがとうございます。大丈夫です。」
私は、丁重にお断りした。
必死そうな呼び込みに、借りて入りたいのはやまやまだが、お金が足りなかった。

高校生になったら、アルバイト代金が入るのかって、勝手に期待して、入学したけれど、アルバイトは在学中は、進学コースは、商業科とは違い、アルバイトは絶対に禁止だ。
「アルバイト、許可出なくて、残念。」
だから、月に、お小遣い制度、しかも、必要経費を事前申請して、許可が出たら、使えることになっている。
昼食は、初めはお弁当だったが、手早く美味しい学院の食堂で済ましている。
新聞部長と、文芸部長を兼任している私には、昼間は何かと提出品の評価を受けに、職員室に通う日々なのだ。
余った食費を、きちんとチマチマ貯めては、流行りのCDアルバム等、好きなものを買う足しにしている。

今回の入館料金ならぬ、展示のチケットは、特別許可が出て、支給して貰った。
「ありがとう、母さん。」
何よりも、今朝は元気よく、明るく、励ます様に、見送ってくれた、母親に感謝だ。
私は、閉館時間が迫っていたので、足早に、サクサク見てまわることにし、一歩を踏み出した。