先輩の瞳が、少しばかり潤んでいた。
「…それでね、その時に思ったわけ。私が先生のことを好きになんてならなかったら、先生と奥さんはきっと、今でも幸せに暮らしてたんだろうなって」
「今でも…?」
「離婚しちゃったのよ、先生」
そして先生の左目から、一粒、綺麗な涙が透明な線を描いた。
「私…恋が実らなかったばかりか、その先生の人生を狂わせちゃったわけ。円満な家庭を築くのって相当苦労したはずなのに、私の身勝手でね。…私の言葉を受け止めてくれてたから、今になって思えば、先生はあの時すでに家庭でうまく行ってなかったのかもしれないけど。それでも私、罪の意識に耐えられなかったの。…分かりやすく言うと、病院にいちゃいけないって思ったわけ」
「…それで…今の仕事に…?」
「そういうこと。…でもね、思ったの」
先輩は私の前にしゃがみ、目線の高さを私と同じにした。
「不幸にさせたくないなら、不幸にさせられないような人と付き合えばいいって」
「…どういうことですか…?」
「う~ん…うまくは言えないんだけどね、そういう自分の悪い所も全部、いい所と同じように受け止めてくれる人と付き合えばいいんじゃない? ってこと。…多分、そんな人のことを、運命の人って呼ぶんだと思う」
私の悪い所を受け止めてくれる人…ダメだ。自分で考えると、どうにも悪い所が多くなりすぎて条件が厳しくなりすぎてしまう。
「日向ちゃん。…一つ、約束してあげる」
「…何ですか…?」
「これは…親として言うことなんだけど、一夜は絶対、日向ちゃんのことを不幸にさせないし、日向ちゃんのせいで不幸になるなんてこともない」
「…先輩…」
「今は多分頭冷やしてるだけだと思うし、もし今日帰ってこなかったとしても、もう高三だから、自分で一泊するくらいのことはできるはずだから。少なくとも明日になったら、再開できると思うわよ」
その言葉は、胸の奥深くに刻み込まれた。結局その日は一夜くんは帰ってこなかったけれど、先輩の言葉があったから、電話でもすれば会えるって、そう期待を持てた。
…あの現場を見るまでは、の話だが。
「…それでね、その時に思ったわけ。私が先生のことを好きになんてならなかったら、先生と奥さんはきっと、今でも幸せに暮らしてたんだろうなって」
「今でも…?」
「離婚しちゃったのよ、先生」
そして先生の左目から、一粒、綺麗な涙が透明な線を描いた。
「私…恋が実らなかったばかりか、その先生の人生を狂わせちゃったわけ。円満な家庭を築くのって相当苦労したはずなのに、私の身勝手でね。…私の言葉を受け止めてくれてたから、今になって思えば、先生はあの時すでに家庭でうまく行ってなかったのかもしれないけど。それでも私、罪の意識に耐えられなかったの。…分かりやすく言うと、病院にいちゃいけないって思ったわけ」
「…それで…今の仕事に…?」
「そういうこと。…でもね、思ったの」
先輩は私の前にしゃがみ、目線の高さを私と同じにした。
「不幸にさせたくないなら、不幸にさせられないような人と付き合えばいいって」
「…どういうことですか…?」
「う~ん…うまくは言えないんだけどね、そういう自分の悪い所も全部、いい所と同じように受け止めてくれる人と付き合えばいいんじゃない? ってこと。…多分、そんな人のことを、運命の人って呼ぶんだと思う」
私の悪い所を受け止めてくれる人…ダメだ。自分で考えると、どうにも悪い所が多くなりすぎて条件が厳しくなりすぎてしまう。
「日向ちゃん。…一つ、約束してあげる」
「…何ですか…?」
「これは…親として言うことなんだけど、一夜は絶対、日向ちゃんのことを不幸にさせないし、日向ちゃんのせいで不幸になるなんてこともない」
「…先輩…」
「今は多分頭冷やしてるだけだと思うし、もし今日帰ってこなかったとしても、もう高三だから、自分で一泊するくらいのことはできるはずだから。少なくとも明日になったら、再開できると思うわよ」
その言葉は、胸の奥深くに刻み込まれた。結局その日は一夜くんは帰ってこなかったけれど、先輩の言葉があったから、電話でもすれば会えるって、そう期待を持てた。
…あの現場を見るまでは、の話だが。



