…だけど私達のこの関係も、「諸行無常」のご多分にもれず、揺らぐのだった。

お父さんが来る前日。つまり土曜日に、事件は起きた。

「日向」

ソファに座ったままうとうとしていた所を、一夜くんに起こされた。後ろを振り返ると一夜くんの姿と同時に、壁にかけた時計が午後五時を指しているのも目に入った。

「あっ…どうしたの?」
「電話鳴ってたのに起きないとか…よっぽど寝てないんだな」

一夜くんは何故か私のケータイを持っていた。…近くに置いていたのに気づかないとは…私、かなり疲れてるな…。

「…電話?」
「ああ。…日向のお父さんから。俺が出たら色々とヤバそうだから、無視しておいたけど」
「えっ…」

一夜くんの手からひったくるようにケータイを取り、着信履歴を確認する。そこには確かに、お父さんからの着信を示すメッセージがあった。

「…ありがとね、一夜くん」

心配性で過保護だから、電話を掛けてくるのには別にそこまで驚きはしなかった。だけどこの時ばかりは何故か、押し迫ってくる何かを感じずにはいられなかった。

「…もしもし」

呼び出し音が二回鳴り、続いてお父さんの声が聞こえてきた。

「あっ…お父さん、私」
「…日向か。電話したのに出ないから心配したんだぞ?」
「ゴメンゴメン、ちょっと手が離せなくて…」

着信があったのは午後三時。まだ解雇になったのを言っていないため、口が裂けても「家で寝ていた」なんて言えない。