「…」

目の前で楽しそうに話をしている一夜くんと雪月ちゃんを見ながら、私は音にもならないため息をついた。

気がつけば私は、二人に振り回されていた。

二人の関係がどうなるのか不安で、その中に私はどんな風にいるのかが知りたくて…。

これが、俗に言う「恋煩い」というものなのだとすれば、私はかなりの重症患者だった。

「…」

私にできるのは、二人の恋を見守ることだけ。そう思っていたから、この後のことにとっさの対応ができなかったのかもしれない…。

その日の夜。

「いただきま~す」

旅館の宴会室で、手を合わせて合唱する。

「…これは…」
「鍋来た~!」

今日の晩ご飯は、鍋(といっても一人分のものだが)だった。夏に鍋を食べるという季節はずれなことが、多分生徒の皆のテンションを上げていたのだろう。

「じゃあ、僕達も頂きましょうか」

部屋の一番南側に、教員席が用意されていた。私達はそこに座っていた。

「そうですね」

手を合わせ、箸を手に取った。そして鍋の中の白菜を箸でつまみ、ポン酢につけて口に入れた。

「ん~!」

テンションが上がった理由が、少しだけ分かった気がした。