次の日から、私は一夜くんと、今までみたいに普通に接していられなくなった(正確には昨日のあの一件があった時からだが、その時は接せざるを得なかったのだ)。

「おはよう、日向ちゃん」
「あっ…先輩、おはようございます」
「どうしたの? 顔赤いじゃない…風邪でも引いた?」
「いえ、その、そうじゃなくて…」

そしてそのお母さんである先輩に対しても、上下関係とは別の緊張感を持ってしまう。

「何? …あ、まさか恋煩いってやつ?」

女の勘というものは恐ろしいもので、他人の精神状態さえも的確に見抜いてしまうことがある。

…図星。こんなことを言われると、どう返していいのか分からなくなる。だからと言って黙っていると…。

「あ、もしかして当たっちゃった?」

さらにギクリとしてしまう。負の連鎖だ。

「あぅ、えっと、その…」
「大丈夫よ。根掘り葉掘り聞いたりなんてしないから。私には関係ないことだしね」

…いえ、思いっきり関係あるんです…なんて、言えるはずもなかった。

「そういえば、一夜も何か変だったのよね…」
「か…鴫城くんが?」

一夜くん、と言いそうになって、慌てて訂正した。

「うん。何か、帰ってくるなり真っ先に部屋に行ったのよ。晩ご飯は別にいいって言って…。大方部屋で、買っておいたパンでも食べたんだと思うんだけどね。昨日一緒に帰ったんでしょ? 何か変わった様子、なかった?」

変わった様子しかなかったのだが、それを正直に言うと非常にややこしくなる。だから私は、嘘をついた。

「いや…特に変わった様子はありませんでしたよ?」
「そう? ならいいんだけど…」