そんな世間の狭さを、私は家に帰ってからも実感することになる。

「ふぅ…」

帰ってゆっくりコーヒーを飲んでいると、家のチャイムが鳴った。

「ピンポーン」
「は~い」

その声を伝えたい本人には聞こえるはずのない応答をしながらドアへと向かう。

「はい」

ドアを開けると、そこには鴫城先輩が立っていた。

「先輩、どうしたんですか?」
「忘れ物してたわよ、ほら」

先輩の手には、私のハンカチがあった。

「あっ…わざわざすみません、ありがとうございます」
「いいのよ、お礼なんて。…そうだ、あと、これ」

先輩が、今度は小包を手渡す。

「何ですか、これ?」
「日向ちゃん、引っ越してきたばかりなんでしょ? おせっかいかもしれないけど、何か手助けになればな~って思って」
「…いいんですか?」
「おせっかいなご近所さんからのお届けものよ。受け取って」
「…ありがとうございます」

先輩を見送ると、小包を開けてみた。中身は、何のことはない、ただの蕎麦だった。

「引っ越し蕎麦、か…」

しかし、その箱を見るなり、私の頭にはお父さんの影がよぎった。

「…この傷…」