「…血は争えないものだな…」
「え? どういうこと、それ?」
「鷹夏先生」

理事長の一声で、慌てて私達は唇を離した。

「あっ…何ですか、理事長?」
「鷹夏先生のお父様は、どこの会社にお勤めですか?」

理事長の心の中にはまだ何かが残っていそうだったが、声はかなり穏やかになっていた。

「会社…ですか?」
「ええ」
「えっと…『プラネット商事』っていう、商社なんですけど…」
「…やはりそうでしたか」
「…やはりって…?」
「先ほど話した、一番の友人だった同僚」

そして理事長は、その穏やかでありながら威厳のある声で、こう言った。

「名前は鷹夏真一。…鷹夏先生のお父様ですよね? 私も以前、プラネット商事に勤めていたもので」
「…理事長が…?」
「はい」

あの蕎麦の違和感が、たった今ほどけた。

何でもない話の中には、きっとあのやり方も入っていた。だから懐かしさを感じた…。

「それから、もう一つ」

理事長の顔を見て分かったけれど、理事長の心の中にあるものは、もう何もないように見えた。

最後の茨が切られた。そんな風だった。

「…先ほどもお話しした通り、一夜は母の愛というものを知らない子です。ですが、鷹夏先生はそれを補って有り余るほど、一夜を愛してくれた…。一夜のこと、よろしくお願いします」