「いやだ、言わせない」

まだ何か言おうとしたシルフェの唇を、ボリスは強引に奪った。

目を見開き、時が止まったようにシルフェの体が固まるのがわかる。

唇から伝わる柔らかい感触は、ボリスの胸を熱くした。

彼女が人間ではないなど、まるで嘘のようだった。

彼女の唇は、人間と同じく、とてもあたたかい―――。




「………………」

天幕の影から最後の方を見てしまったサラマスは、言い知れぬ気分を味わっていた。

ポックに水をもらおうと、天幕を出たところ、「そんな恋、するなと言ってるんだ」と声が聞こえ、並んで会話する二人に気付いて、なぜか慌てて隠れてしまったのだ。

そのままなんとなく出て行きづらくて、口づけまで見てしまった。

ぎょっとして、サラマスは天幕に逃げ帰った。

水などもう飲みたくなかった。

眠りなおせる気もしない。

…サラマスはどうやらとても混乱しているようだった。

まさか、妹のように思って来たシルフェに、告白する男が現れるとは。

もちろん、シルフェもそろそろそんな話がひとつやふたつあっても、おかしくはない。中身はともかく、外見はあれだけ美しいのだ。シルフェにほのかな想いを寄せる数多の準神の男たちの話を、知らなかったわけではない。

だが、相手があれほど真剣にシルフェを想っているのは、はじめてではないだろうか。