意を決し、ボリスは口を開いた。

「あの、さ。
お前が言ってた好きな人って……サラマスのこと、なのか?」

意表を突かれたといったかんじで、シルフェは目を丸くし、実に乙女らしくふわりと頬を染めた。

「えっ! そ、そうだけど…わかっちゃったかしら? うふふ」

「………………」

予想はしていたことなのに、ボリスは心に半端ではない衝撃を受けた。

返す言葉が見当たらない。

その沈黙をどうとったのか、ふっとシルフェの表情がかげった。

「でも…ボリスも見たものね。
サラマスは、昔から、ディーネ様しか見ていない。
そんなこと、私もわかっているけど……」

シルフェはボリスに向けていた視線をもう一度夜空へと向け、微笑んだ。

「いつか、振り向いてくれると、信じているの」

その瞳に映っているのは、きっと夜空ではないのだろう。

愛する人サラマスの面影なのだろう。

―サラマスは他の女性のことが好きなのに?

そう思ったら、ボリスは急に腹が立って来た。

何にだろう。

そう、このような運命に、だ。

少し荒い口調で、ボリスは告げた。