「…シルフェ」

小さく呼びかけると、シルフェが軽やかな仕草で振り返った。

それだけの動作が、とても美しく映る。

ふわりと花の香りが漂ってきそうだ。

「ボリス。眠れないの?」

「…まあな。お前もか?」

「…うん」

ボリスはシルフェの隣に腰掛けた。

シルフェは何も言わない。

立ち上がろうとする気配もない。

二人はしばらく無言で風に吹かれ、夜空を見上げていた。

ここが天上界だとは到底思えぬほど、人間界に酷似した空。

―今ここには、二人しかいない。

シルフェにどうしても聞きたいことがある。それを聞くなら今しかない、とボリスは思った。

けれど、それはとても大事な質問だったので、逡巡しているうちに喉がからからにかわいてしまった。