ボリスはあちこち見るのがだめならばと、小舟に注目してみた。

この小舟、櫂もなしでするすると進んでいく。

水が舟の主の願った方向へ流れているらしい。

その動きは、まさに自由自在。

さすが水の神の住居だ…。

小舟は細い水路をぐんぐん進み、やがて太い水路へと合流して、しばらくすると、ぱっと開けた場所に出た。

水路の左右を囲む彫像に、厳かな空気を感じる。

この類の彫像は、人間界だと神々を模したものが多いが、天上界だと何を模しているのだろうか。気になる。

ボリスがついまたきょろきょろしているうち、中央に玉座のある、人間界でいうところの謁見の間のような場所に出た。

玉座に座す人影を見た時、ボリスは自分でも気づかないうちに息を呑んでいた。

それほどに…現れた存在は、類稀なる美の光を放っていた。

「サラマス、シルフェード、そして人間界からの客人よ。
ようこそいらっしゃいました」

鈴を転がしたような澄んだ高い声。

踝まで達するかと思われる長い髪は、おそらくどんな本物の海よりも青く澄み渡り、どんな波よりも光をきらきらと弾くだろう。

シルフェもサラマスも美しいのは見ればわかる。だが目の前の彼女はそれをさらに超えた超絶的な美しさを持っているようだった。