神殿の廊下を抜け、階段を下り、バルコニーから見えていた氷の噴水まで勢いを落とさず駆け続けた。

なんでこんなふうにディセルから逃げて走っているのか、だんだんばからしくなってくる。

(なにやってるのよ、私)

所在無げに氷の噴水を眺めていると、背後から誰かが走ってくる足音が聞こえた。

「セレイア!」

セレイアはぎょっとした。

まさかディセルが追いかけてくるとは思わなかったのだ。

(どんな顔して話せばいいのよ)

「ディセル……ええっと」

思わず彼の方を振り返ってしまったが、まともに顔を見られなくて、セレイアはうつむく。

二人の間に沈黙が落ちた。

ディセルの表情が見られないから、彼が今何を考えて沈黙しているのか、わからない。

けれどその沈黙が、ドキドキを含んでいる。

彼の存在を近くに感じるだけで、胸がきゅっと締め付けられる。

(…嘘。信じられない。
でもやっぱり私…………)

「セレイア…ごめん、怒っているよね」

「え……?」

沈黙を破ったのは、思いもよらぬディセルの台詞だった。