理の塔中枢の持つ力は絶対的だった。

皇帝軍の人間たちは一人残らず人間界へと強制転送された。

レコンダムの遺骸も、おそらく人間界へ帰っただろう。

全てが終わると、最上階の扉は閉まり、もう何人も入ることはできなくなった。これから先いつか、開くときが来るのか、それは誰にもわからなかった。

ボリスは、人間界へと帰っていった。

意外だったのは、その旅にシルフェまで同行したことだ。

風の神として天上界で生きるより、ボリスと共に人間界で生きることを願った…らしい。らしいとしか言えないのは、シルフェがちっとも嬉しそうじゃなかったからだ。

けれどどこかふっきれたような表情をして笑っていたから、セレイアは何も言わなかった。

サラマスはなぜかとても不機嫌で、二人の見送りにも来なかった。

天上界に平和が戻ってから、数日。

何もかもが元通りーとはいかないのが悲しかった。

ポックの死の事実は、セレイアを悲しみに突き落としていた。

雪の庭の、ディセルの住まいの近くの雪原に、ポックのための小さなお墓を立てた。

そこでポックの冥福を祈るたび、まだ涙があふれる。

この痛みを、忘れるまいとセレイアは思っていた。

ポックが、命を賭けて天上界を守ってくれた、その証として、胸に刻みつけたかった。